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 夏休みといえば自由研究、ということで、今日は朝からたっくん(九歳)とみくるちゃん(九歳)がうちに来て何やら色々とやっておりました。

 

「という訳でイベたんの観察日記を書きたいんだけど」

「何がという訳なのかまったくわかりません。というか、あのですね、『たん』付けするならいっそ呼び捨てにしてください」

「じゃあイベリコ。俺さっきみくるちゃんと一緒にイベリコのプロフィール書いてたんだけど、こんなもんでいい?」

「微塵の遠慮もなく呼び捨てにしましたねたっくん……プロフィールですか……ええっと、すいませんがこの『五歳でアリゾナ州ジャングルフォーエヴァースに入団』ってなんですか」

「契約金はごぼう二本で」

「ごぼう!? や、ごぼうでなく、何をしょっぱなから嘘八百を書き連ねているのですか」

「だって箔がつくじゃん。その方が面白いし」

「そんな恥でしかない箔など三秒でひっぺがしますよ。大体ジャングルフォーエヴァースってなんなんですか」

「そんで、十歳で風呂場のすのことトレードされたことをきっかけに来日。日本では持ち前のデコのテカリ具合が光化学スモッグによってにぶって選手生命を断たれ、やけになってすべての歯に青海苔をむらなく付着させることに青春を費やすんだよ」

「そんな十歳いやだ」

「しかしそんな彼も尾てい骨を故障し廃人同然で道端のたこ焼きを貪っていたところを通りがかりの美女に拾われ、飼い主として崇め奉るようになり現在に至ると」

「九割九分九厘まゆつばじゃないですか」

「でも年収欄と趣味欄は合ってるでしょ」

「……年収●万、趣味・黒いこと全般……って……まあ、はずれちゃいませんが当たってもいないですよ……」

「将来の夢は『黒いことを専門に扱う雑誌・マガジン☆ダァティ→oの謳って躍れる専属お色気ライター』でいいよね」

「一ミリもよくありません」

「夢は大きい方がいいっていうじゃん」

「……それ むしろ小さいと思います」

「とにかく俺、これ 学校に出さなきゃいけないから」

「が、学校に!? 出すんですか!? それを!? 本気!?」

「俺はいつだって本音で生きてる」

「じゃあそのプロフィール破棄してくださいよ!」

「面白くないからヤダ」

 

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 先日 ソマリアだかスーダンだかに行っていたモグリ医師と言っても差し支えない身分であります僕の友人・雅巳さんが、久々に日本に帰ってきたということで、夜宵さまともども彼のお宅を訪ねて行った次第。

 相変わらず美人の彼の奥さんに迎えられて中に入りますと、ものすごい荒れよう。日本に帰っている日は一ヶ月くらいと公言する雅巳さんですから、まあ 仕方ないといえば仕方ないのかもしれないのですけれど。

 そして当然のように掃除を手伝わされ、夜宵さまと奥さんは連れ立ってお茶に出かけ、家にいるのはほこりまみれになって掃除している僕と雅巳さんのみ。男尊女卑ってなんですか。

 

「ところでイベリコ(仮名)、お前 最近彼女できたそうだな」

「ブハッ! で、できてませんよ!」

「え? マジで? でも夜宵さんからそう聞いたぞ。九歳の彼女がいるって」

「そんな犯罪的なこと、どこかのどなたかではあるまいに、するわけないでしょう」

「そうか……じゃあ俺の作った新薬をテストしてもらいたいんだが」

「試薬? そういうのは専門の研究機関を通して臨床実験をするもんじゃあないんですか」

「堅いこと言うなよ」

「言いますよふざけんな。なんの試薬なんですか」

「端的に言えば、惚れ薬だな」

「惚れ薬?」

「そう。恋愛ってのは要するに脳から分泌される化学物質によって起こる心的現象で、異性に限らず何らかの状況や物体にときめいている時には総称にしてPEAと呼ばれる化学物質が脳内に分泌され、それによって恋愛に関する様々な欲望が自覚されるんだ」

「……は、はあ。要するにその脳内の化学物質を使った惚れ薬なんですか」

「要するに脳内覚醒剤を使った惚れ薬なんだが」

「……えっと、すいません、その右手に持った注射はなんですか」

「これを注射すれば貞操観念や理性や倫理など遥か彼方に押しやられ、誰にでも恋愛感情を抱くようになるんじゃあなかろうかということで、コロンビアのボゴタでゲットした危ない薬を色々混ぜて一発ギャグのつもりで作ってみた。とりあえず手近なところでお前で実験してみたいんだが。潔癖症のお前が俺に惚れたら成功だよな」

「一発ギャグ!? ち、近寄らないでください! 絶対いやです! あんたに惚れるくらいなら鈴木宗男に惚れる方がまだなんぼかマシです!」

「けっこう言うなお前」

「ってゆーか……大体そんなもん使ってマジで効果出ちゃったら浮気と勘違いされて嫁さんにボコボコにされるのはあんたですよ?」

「うっ……」

 

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 今日、夜宵さまが「安かったのでおすそ分けです」と 大量の美少女フィギュアをくださいました。

 御厚意なのか嫌がらせなのか いや 多分 九分九厘以上嫌がらせだということは わかっているのですけど いるのですけど。

 

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<今日の出来事>

 

・早朝、電話に起こされ、出てみますと友人の雅巳さんから。

・帰国して家を片付けているものの、奥さんとまたケンカしたせいでそれどころではなくなってしまい、途方に暮れているとのこと。

・掃除してくれたら五千円よこすと言うので行ってみますと、あり得ないほどにうずたかく積まれた荷物の数々。居間を元の状態に戻すまで二時間。掃除機をかけ雑巾で拭くまでに一時間。

・その後、お風呂掃除を頼まれて、すのこを上げてタイルを磨こうとしましたところ 体長二十cmほどの白いアリのような虫とご対面

・「ぎゃーッ!」「なんだ、どうした」「変な虫がっ! 変な!」「ああこれ? 俺が十歳くらいの時遊んでたおもちゃ」「なんでそんなもんがこんなとこにあるんですか!」

・へろへろになって帰ると既に家にはたっくん(九歳)とみくるちゃん(九歳)が夏休みの宿題の総括中。情け容赦なく昼食調理を命ぜられ

・うっかり焼きそばを作ってしまったところ「今日は夏祭りでそこかしこに焼きそばの露店があるというのになんて無粋なことしてくれるんですかこの♥♥♥♥野郎!」と罵倒された挙句、優に四人分はあろうかという焼きそばの完食を強要され

・半泣きになりつつ食しているところを帰宅した夜宵さまが発見。「まあっ! 私をさしおいて何を一人で下僕がそんな大盛り焼きそばをたいらげてやがるのですか!」とあり得ないほど怒られ

 

 大人にも弱音を吐きたい日が あるのですよ。

 

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 夕食途中、テレビ番組でアメリカザリガニというお笑い芸人コンビが絵を使ってネタを披露しているのを見て、夜宵さまが

 

「こういうネタやってるお笑い芸人って、他にもいますよね」

「ああ……いますね」

「なんでしたっけ、こう、キッキッキーというか」

「……?」

 

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「イベリコ。突然ですけれど、あなた、保険とか入っています?」

「入ってはおりませんが、生命保険に新規加入して受取人を夜宵さまにしなさいというようなことでしたらお断りいたしますよ」

「そういうことじゃありません。せっかくできたあなたの別荘の火災保険の話です」

「別荘というのは、庭にある赤い屋根のポチ小屋のことでありましょうか」

「他に何が」

「『何が』って。突っ込みどころは多々ありますが、なんと言いますか、色々と無茶です」

「無茶なことはありません。あなたの別荘なんですから大切になさい」

「使い道が思い浮かばないですが、一応手入れはしておりますよ。そもそも、ポチ小屋に火災保険は降りないと思います」

「能書きはいいです。せっかく休暇をくれてやろうと思いましたのに、興ざめです。このボウフラが」

「うわ、さりげなく誹謗中傷された。休暇、いただけるんでしたらいくらでもいただきたいです。ふんだんにください」

「ふんだんにではないですけど。一週間程度ですかね。遅い夏休みのつもりでいなさい」

「やった、八月いっぱい ずっとたっくんやみくるちゃんに付き合わされて、ビタミンDを作らない日はないってくらいに日光に当たりっぱなしだったのでとっても嬉しいです」

「条件がありますけどね」

「え、じょ、条件って、なんですか」

「別荘宿泊で、七泊八日です」

「いやいやいや、それって 要するにテメェは庭で寝てやがれってことですか? もうすぐ台風も来るというのに」

「その通りですけど、何か」

「何か でないです。それは休暇でなくて嫌がらせではありませんか」

「嫌がらせとも言いますね」

「言わないでください」

 

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 夜宵さまが、事故に遭われました。電話でその知らせを聞き、愛車(自転車)で病院へ向かう途中で車に轢き殺されかけましたが無事に到着。不審な目でこちらを見ている看護師によくまわらない舌で病室を聞き、エレベーターで上がればいいものを動転のあまり近くの階段を駆け上がって病室へ。

 

「や、夜宵さま!」

「あら、イベリコ。ごきげんよう」

「ご、ごきげんようでなくて、だ だ 大丈夫なんですか? 事故に遭ったと聞いていたのですぐに来たのですけど」

「とりあえず、落ち着きなさい。個人部屋に入院しているとはいえ、ケガはそんなに重くはありませんよ」

「いったいどうして事故に」

「轢き逃げです」

「ひ、ひ、轢き逃げ!?」

「だから落ち着きなさいと言うのに。バイクに後ろからはねられましたのよ。幸い、軽いケガで済みましたけどね」

「そ、そうなんですか……では、容態につきましては心配ないということですね。あ、でしたら、どうして個人部屋に入院なさっているのですか?」

「ケガ自体は打撲ですとかすり傷程度なんですけど、加害者側に請求する診療費をつり上げようかと思いまして、今 担当医と話をつけてましたのよ」

「……つ、つり上げ?」

「退院してからも通院費はかかりますからねえ。診断書にちょっと手心を加えてもらえば通常の三倍はぶんどれますよ。何せ向こうは当てた後に逃げちゃってますから、確実に救護義務違反にあたります。しかも最初に警察に事情聴取されたのは被害者の私ですから、事実はいくらでも私の都合に沿いますのよ。それにしても、ナンバーをしっかり覚えられているのに自首すらしないなんてボンクラもいいところですね。数ある通行人の中でも私をはね飛ばした挙句にトンズラこいたこと、これからたっぷりと後悔させてあげます。うふふふ……」

 

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 今日は早朝 夜宵さまに文字通り叩き起こされると同時に買い物に同行するよう言われ、ほぼ一日中荷物持ちをしてました。その買い物途中、同じ建物内にありましたゲームセンターの『恋愛診断』というものに夜宵さまが興味を持たれ、プレイすることになり。

 

「結果、結果……と。あら、私、ランキングで総合得点一位なのですねえ。『恋愛の達人タイプ』ですって」

「『恋愛横綱級』 ……実に納得ですね……」

「どういう意味なのかしら」

「いっ、いえっ! 夜宵さまはお美しくて寄って来る男は星の数ほどいると思いますし、振る舞いも洗練されていらっしゃいますし、お金持ちですし、頭脳明晰 博覧強記ですし……」

「……ならいいんですけど。あら、追加料金で特定の方と相性占いができますのねえ。あなた、せっかくですから私と相性占いしてみません?」

「え。……い、いえ、僕は遠慮させていただきます」

「お金ならおごってあげますから心配せずとも結構ですよ」

「……そういう意味でもないのですが」

「じゃあどういう意味なのかしら え?」

「も、申し訳ございません。やります。やらせていただきます」

「はい、百円。ありがたくいただきなさい」

「ど、どうもありがとうございます……ええと、コンティニュー と」

 

(恋人としての相性)二人の出会いは最悪の印象! 『やよい』さんは『イベリコ』さんのコドモっぽい所が鼻につき、『イベリコ』さんは『やよい』さんの洗練された印象に怖気づいてしまうかも。でも付き合ってからは『イベリコ』さんの意外なマメさが『やよい』さんに好印象、そのまま熱烈なラブに発展しちゃいます!

 

「あ、あり得ない……」

「何があり得ないんですの、何が」

「い、痛い、つねらないでください」

「あら、結婚の相性なんてのも出るんですのねえ」

「え」

 

(結婚の相性) 超バツグン! お互いがお互いの欠点をカバーするいい夫婦になれそうだヨ。

 (ラブラブ度)八十三%。新婚カップル級。

 

「更にあり得ない……」

「……だから何があり得ないんですの、何が。ええ?」

「僕と夜宵さまが結婚だなんて、近所の公園の築山が突然噴火するくらいあり得ませんよ     痛たたたたた痛い痛い」

 

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「イベリコ。見てください このチラシ。身に着けるだけで信じられないほど幸運が舞い込んでくるブレスレット『エンジェルアイ(仮名)』ですって」

「うっわ、うさんくさっ」

「エンジェルアイ(仮名)なんて可愛らしい名前の割に、男性向けなのですね」

「すごいですね。非イケメンが美女片手に写ってる写真のキャッチが『エンアイ(仮名)でゲットした女、総勢二十人以上! その中でも今一番お気に入りの女です!』」

「こんなんにだまされる殿方はその程度だってことですね。わかりやすい欲望ですけど、それが叶うオトコはやっぱりそれなりの金なりクチなり容姿なりがないとダメでしょう。ブレスレットでどうにかなるんでしたら世の中 戦争なんてありませんよ」

「その他の体験談も、要するにブサイクでモテない自分でも女はできるし金は入るし仕事は見つかるしでもうえらいことですハハハってのばっかですね。ワンパターンというかなんというか」

「そういえば、女性向けの開運商品には『彼氏ができるヨ』てのはありましても、連日連夜イイ男ゲットしまくり!てのはありませんよねえ。これってジェンダーの問題なのでしょうか」

「さ、さあ……」

「女性向けの商品にだって、ジャニーズ系の美形ばっかはべらせてプールでタバコに火をつけさせてる写真ですとか、美男片手に『今一番お気に入りのタカオです☆』なんて写真があったって不思議じゃないと思うんですけどねえ」

「そーですね……でも女性の中では、そういう同性を見たら嫌悪を感じる人が多いと思うのですけど」

「そうでしょうか。私はなんとも思いませんよ」

「夜宵さまはそうでいらっしゃるかもしれませんが」

「まあ女性はたいてい自分よりモテる女が嫌いですからねえ。ともあれ美少年がザックザックって商品があったら、私 ぜひぜひモニターに応募したいですね」

「結局はそこですか夜宵さま」

「何か文句あるんですか?」

 

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「イベリコ、イベリコ、見てくださいっ」

「なんでしょう  ……ら、『ラーメンようかん』……?」

「いいでしょう。今日のおやつに食べません?」

「何故にこういった物をご購入されたのですか」

「前々から気になっていたのですが、勇気を出して買ってみました」

「どうしてそのようないらない勇気を出してしまわれるのでしょう」

「お黙り。いいから食しなさい」

「えっ、こ これ 僕が食べるんですか!?」

「むしろあなた専用ですね」

「なんですと!?」

 


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