ひわの葉薬(トップ) > 夜宵さまと僕 > 51〜60


 

51
(抹消)

 

52

「イベリコ。どのパイナップルが一番 人を撲殺できそうでしょうか」

「夜宵さま。果物を買うか否かを撲殺の可否で決定されるのはどうかと思います」

 

53

「夜宵さま、最近 うちによく来る佐藤みくるちゃんという女の子をご存知ですか」

「当然 知ってますよ。あの可愛らしい女の子でしょう? 確か、あなたの彼女だとかいう」

「断じて違います」

「あら、違うんですの? 私てっきりもういくところまでいっちゃっているのかと」

「すいませんが、前提事実からして事実無根ですよ夜宵さま」

「で、そのみくるちゃんがどうかなさったの」

「……いえ、みくるちゃん本人がどうという訳ではないのですけど……最近の小学生は恐ろしいですね……」

「そうですねえ。たっくんも あんな可愛い顔して上乗せする時はしますからね」

「え、上乗せって、な、何をですか……?」

「こないだはルーレットで一千万乗せて勝ちましたよ、たっくん」

「いやいやいや、小学生のたっくんに何をやらせているのですか夜宵さま。っていうか、っていうか、僕の年収の十倍以上がそんなルーレットごときで」

「あら? あなた、そんなに年収が少なくて?」

「夜宵さま、いっつも、僕のバイト代もお給金もろともふんだくるじゃありませんか」

「ふんだくるとは失礼な。可愛いしもべに世間の厳しさを教えてあげているだけです。感謝なさい」

「たまには世間の優しさを教えてください」

「世間が優しいのは金持ちに対してだけですよ」

「……つまり夜宵さまのような方ですか」

「あと美少年ですね」

「それは断じて違います」

 

54

「ねえイベリコ。ちょっと聞きたいのですけど、殿方ってやっぱり女性のパンツが気になるものですか?」

「唐突に何をおっしゃいますか」

「いえね。今日 たっくんと一緒に商店街にお買い物に行ったんですけど、その時ひざ上四十cmの超ミニスカートだったせいか ちょっと早歩きしただけでも見えまくったようで、出会う人 出会う人 私のナマ足に釘付けでしたよ」

「いやいやいや、何て格好してらっしゃるんですか」

「まあパンツの一枚くらいなんてことありませんけどね」

「夜宵さまはなんともないのかもしれませんが、世間一般での女性はそうでないと思いますよ」

「私が世間一般でなければならないという必然性はどこにもありませんよ。で、思ったのです。殿方って、女性のパンツがお好きですよねえ。どうしてなのかしら」

「はあ……女性は女性でも若い女性に限定されることがほとんどではないかと思いますが。僕にはよくわかりません」

「あら、あなた、女性のパンツには萌えないたちですか」

「萌える萌えない以前に 見てしまったらこっちが恥ずかしくなります……」

「そうですか。珍しいたちですけど、いまいち信用なりませんね」

「な、何故」

「だって、殿方はみなさん助平じゃありませんの。多分あなたも深層心理ではそうなんだと思いますのよ」

「か、かもしれませんけど って、な、ちょ、なんでいきなりスカートめくってるんですか!」

「ちょっと実験してみたくなりまして。どうですか」

「どうですか じゃないです! しまってください!」

「胸とかもどうですか」

「だからしまってくださいって や、ちょ、ち、痴漢です! 痴漢です!」

「うふふふふ」

 

55

 先日のこと。(約7kb)

 

56

「イベリコ、ちょっと手伝ってくれません? 通販で買ったケア用品がたまっちゃって」

「かまいませんけど。って、うわ、なんですか この大量の化粧品ボトルだのクリームだの」

「安くて面白そうなものを選んで買っていたらこんなことになっちゃったんですけど。いっぱいあるでしょ。ひなぎくの化粧水とかお気に入りなのです」

「シャネルとかエルメスとか ブランド物は全然ないのですね。意外」

「そういう高いもの買う時はそれなりの場所に行きますよ。これはあくまで私の趣味のひとつです。ああ、そうだ。あなたもやってみません? スキンケア」

「ぼ、ぼ、ぼ、僕がですか?」

「嫌そうですね」

「い、嫌ってことないですけど、本当にこれ、スキンケア用品なのですか?」

「まつげを伸ばすクリームとか、歯を白くする歯磨き粉とか、色々ありますよ」

「それ、スキンケアじゃないですよ」

「まあ似たようなものでしょ。これなんかいかが? マルセイユで造った石鹸なんですけど、お肌がしっとりつやつやになるんだそうですよ」

「……見た目すごいですね。木箱入りですか……これ、いくらなんですか?」

「六個入りで四千円くらいですかねえ」

「よ、四千円!? この、百円均一で石鹸だの化粧品だのが買える時代に!?」

「自分にかけるお金は惜しみませんよ、私は。まあこれらは安物といえば安物ですけどねえ」

「それにしたって僕の日給の二十倍近くですよ、たかが石鹸が」

「たかが、とは失礼な。安かろう悪かろうな商品ばっかり使ってるから貧乏性が抜けないんですよ。この凡愚」

「毎日毎日、安売り商品に目を光らせて生活している者といたしましては にわかには信じがたいです」

「じゃ、これあげるからちょっと使ってみなさい。最高級の制汗パウダー五千円です」

「ご、五千円……見た目はドラッグストアのベビーパウダー四百五十円となんら変わりはありませんが」

「いいから使ってみなさい。そうすればあなたのその愚考も改められることでしょう」

「愚考って。ま、まあ、御厚意はありがたく受け取らせていただきますけど。こんな高いものいただいてよろしいのですか?」

「大丈夫です。それ、あなたの今月のお給金(現物支給)です」

「ちょっと待っ」

 

57

 ここのところ体重が落ちっぱなしです。数ヶ月前と比べて六kgは減っています。ズボンがゆるい。

 一体どういうことなんだろうなあ と 内心とぼけてはみましたが、体重の落ちている理由なんて あの方しか思い浮かびません。

 

「どうかいたしましたの。体重計なんか凝視しちゃって、太ったんですか?」

「むしろ痩せているんですけど」

「ああ……確かに、あなた 私に仕えだした頃は巨乳でしたものね」

「なっ、何をおっしゃいますか! 別にあの頃は痩せちゃいませんでしたが、巨乳ってこたないですよ!」

「まあ引き締まるってことはいいことなんじゃありませんの? 痩せすぎはキモいですけどね」

「……そ、そうですね……」

「私なんて、最近 肉がついてついて困ってますのよ」

「え? そうは見えませんけど……失礼ですが、夜宵さまは 今 体重は何kgでいらっしゃるのですか?」

「百六十五cm五十kgですけど」

「……むしろ痩せてると思うのですけど……」

「そうですか? 私、前は四十六kgでしたのよ。ウエストだって五十三cmしかありませんでしたのに」

「え、い、今ウエストは……」

「五十九cmです。少々ヤバイ領域に入りかけてますね」

「夜宵さま、そんなことを昨今のダイエットに悩む女性たちに言ったら呪い殺されますよ」

「別に私が気にしてるだけで、他の方々に私の価値観を強制するつもりはありませんけど」

「そ、それはそうでしょうが」

「それに私、いいデブが好きです」

「……いいデブって……」

「芸能人で言えばホンジャマカの石塚さんですとか、舞の海さんですとか。内山信二はダメです。松村もアウトですね」

「基準がよくわからないのですけど」

「まあそんな訳ですから、あなたにはもっと太っていただきたいんですけど」

「どういう理屈ですか」

「やっぱり、はべらせるしもべは私好みでないと」

「そんなことおっしゃるのでしたらお給金上げてください。食べる物も食べられない現状では太りようがないです」」

「じゃあこれからあなたの食事はすべて豚の脂身にしましょうか」

「や、殺す気ですか」

「ええ、ちょっと☆」

 

58

 今朝方、ちょっとした衝撃の事実が発覚。夜宵さまから先日頂いた制汗パウダーが、実は八千四百円でした。五千円と聞いていた時ですらびっくりしたのにこの値段 しかも値引き後の価格であったことに二度びっくりです。日本は実は好景気なのでしょうか。

 こんな制汗パウダーをぽんと施すほど、夜宵さまはご自身の美容に余念がありません。 毎日毎日 お風呂の後のスキンケアにはたっぷり二時間以上かけておられます。

 

「夜宵さま、それはなんですか?」

「ああ、生椿油ですよー。髪の毛がつやつやになります。やってみます?」

「いえ、もったいないですから……ところで、夜宵さまはあまりお化粧なさらないのに たくさんスキンケア用品を持っていらっしゃいますよね」

「そりゃ、元の顔が資本ですからねえ。化粧でごまかせない部分はしっかり元から作っておくのですよ」

「夜宵さまのような方がそんなことをなさる必要はないと思いますけど」

「わかってませんねえ。生まれ持った美貌は天性の才能と同じですが、磨かなければ凡百のイモ以下なんですよ」

「やたら自信満々ですね……」

「まあ並み居る美少年を誘惑するには私自身の美貌も磨いておかなければなりませんし」

「目的はそこですか」

「他に何が。犯罪的なまでに美しく優雅であってこそ 油断した美少年を愛でられるというものです。うふふ」

「犯罪的というか、その美貌で世間をごまかしてますよね」

「何か言いました?」

「い、いえ」

 

59

 ……さて、夏休みが始まってしまったのですね。

 大多数の小学生はこれから海やプールや遊園地や映画館で大忙しなこの時期初日、夜宵さまのフィアンセ(九歳美少年)は朝っぱらから我が家で『ハムナプトラ2』を鑑賞しています。どうやら、夜宵さまがお仕事からお戻りになるまでここにいようという魂胆らしく。

 

「面白かったー。イベリコたんも一緒に他のDVD見よーよ」

「もう何とでも呼んでください。ていうか、僕は仕事がありますので」

「仕事ー? そんなもん後で何とでもなるよ」

「ひ、他人事だと思って」

「他人事じゃん。あー、ヒマだからイベリコたん 何か怖い話してよ」

「こ、怖い話ですか……? スポーツジム跡に建てられたとあるホテルの一室に泊まると夜な夜なボクサーの霊が現れて客にワンツーを叩き込」

「いや、怖くないからそれ」

「そんなこと言われましても」

「じゃ、イベリコたんが今までに聞いた一番怖い話教えてよ」

「……そ、そうだなあ……とある違法カジノのルーレットディーラーは完璧に玉を操作できる人間しか選ばれないので非常に名誉ある仕事なんですが、ちょっとミスって自爆してしまうと翌日廃ビルに呼び出され」

「そういう怖さじゃなくて。もっと身近な話」

「……み、身近……ですか…… そういえば先日 夜宵さまがコレクションしていらっしゃる棚を誤って崩してしまいまして、そこから秘蔵写真集と書かれたアルバムが何冊も出てきてしまってちらっと見てみましたら」

 

 ガチャリ

 

「ただいまイベリコ」

「ぎゃあああああ!?」

「あ、夜宵さん、遅かったねー」

「うふふ、ちょっと手間取ってしまいまして。お待たせしましたねえたっくん。……で、イベリコ、何がどうしたんですって?」

「痛い、足 踏んでます 踏んでます、ごめんなさい」

 

60

「イベリコ。これあげます」

「なんですかこのネックレスは」

「うふふふふ。いいでしょう。ブランド物なのですよ。革製ですけどメタリックなクロスパーツがエクセレントでしょう」

「その英語はなんなのですか。いや、まあ、いただけるのでしたら有難く頂戴しますけど、どうして今 僕にこれを」

「いいからつけてみなさい」

「は、はあ……えっと、つけましたけど、これは一体」

「あらやっぱりよく似合いますねえ。うふふふふ」

「いまいち釈然としませんが、どうもありがとうございます」

「写真撮ったげます。マイデジカメで」

「ど、どうも……」

「そして私の持っているサイトに実名顔写真付きで掲載してあげます」

「ちょっと待っ」

「キャプションは『新しい首輪でゴキゲンな私のわんこでぇ〜す☆』でどうでしょう」

「どうでしょうじゃないですよ! ちょ、こ、これ首輪なんですか!?」

「ハイ、チーズ」

 


戻る