ひわの葉薬(トップ) > 夜宵さまと僕 > 201〜210


 

201

「日本中を根気よく回れば、いつか私を『神の子である』と信じてしまう人が相当数出てくると思うのです」

「突然いかがなされましたか夜宵さま」

「ワインだのパンだのポロポロ出さなくとも、今の人間だって ちょっとした手品を奇跡と言い張れば 100人中1〜2人は信じるのではないかと思うのですよ」

「はあ……夜宵さま、教祖になられるのですか。今でも十分教祖っぽいですが」

「まあ私ほどの美貌となれば自然とそうなっていくものですよね。あえて言うならばこの私の存在が奇跡と言いますか、神のみわざと言いますか、神というよりむしろ魔王というものがこの世にいるのなら夜宵さまのようなお顔だと思いますよ何ですって?」

「ちょっ、何で一人ツッコミが僕の責任に い 痛ッ 耳朶をひねらないでください!」

 

202

「豚。前に、『モトカレ イマカレ ベツカレ』とかいう携帯用ゲームのCMがありましたね」

「ああ、女性向けの恋愛シミュレーションゲームですよね」

「久坂葉子で言うと、緑の島 鉄路のほとり 青白き大佐がそれぞれ順に、モトカレ イマカレ ベツカレですね」

「どマイナー過ぎて、誰がわかるのか疑問ですね」

「これにオツカレを加えるとしたら、あなたは誰を選びますか」

「オツカレて。いや、僕は久坂葉子はあんまり知らないので……」

「では、紅の豚にしましょうか。それでは豚、今すぐホームセンターに行って赤ペンキ四リットルを購入し会計直後に頭から被りなさい」

「えっ僕!? 僕が!? 何のために!」

「ああ いくら紅の豚でも飛べない豚はただの豚だそうですから、その後ビルの屋上から紐無しバンジーを決行したらいかが」

「……夜宵さま、さっきの僕のどマイナー発言はそれほど不愉快でしたか」

「それなりに」

 

203

「ねえ、あなたはいつ本気を出すのかしら?」

「えっ……僕はいつも 全力で夜宵さまにお仕えしているつもりなのですが……」

「だったら不審者と通報されるのを覚悟で登下校中の小学校低学年美少年の水蜜桃のようなうぶげの美しい襟足や まっすぐに伸びた小鹿のように活発な脚や 毛穴のわからないつるりとした頬を ジッとビデオに撮ってそっと私の枕元へ置いておくくらいの気遣いが出来ないのですか!」

「それは本気出したしもべというよりも 鉄砲玉と言って過言ではないと思います」

「じゃあ撃ってあげます バキュンバキュン」

「何で二回……え、もしかして 二回行けってことですか……?」

 

204

「私の考えていることを当ててみなさい」

「『ミゲル君は無事美少年からイケメンに成長したものですね』」

「これからあなたをエスパーと呼んであげましょう。ねえ伊東」

「そっち!?」

 

205

「よう、イベ。久しぶりだな」

「おや雅巳さんじゃありませんか。最近全然見かけなかったので、コンゴ辺りで撃ち殺されたかと思っていました」

「まあ似たような目には遭ったが、今の所 五体満足だ。それより……」

「それより?」

「まだ結婚してないのか、お前」

「余計なお世話ですよ死ね。自由でいる時間を楽しんで何が悪いんです」

「マスコミは金にならないから黙っているが、そういう独身男女が少子化の原因になっているんだ。おまえにぴったりな妙齢の女子を、俺が紹介してやろうか?」

「雅巳さんに紹介されるような妙齢の女子って、どんな方なんでしょう」

「美人で気立てが良くて恥ずかしがり屋で隠れ巨乳でちょっとした液が出るツンデレ眼鏡っ子だが」

「ちょっとした液って何の液ですか」

「少しはごまかされろよ」

「ごまかされてたまるか!」

 

206

「そろそろあなたが私に仕えて、十年になりそうね」

「そうですね。夜宵さまは、十年経ってもまったくお変わりありませんね。色々な意味で」

「あら、私だって価値観が変わりましたよ。昨今の年端もいかないジュニアアイドルたちがきわどいDVDを撮られて傷ついているのを見て、それまで溜め込んでいたショタDVDをキラウェア火山口に投下しましたから」

「ああ、それでこの前ハワイに行かれたんですね……」

「ええ。子供を性的に搾取して利益を得ようだなんてゲスの極みですよ、そう思いませんか? 豚」

「さっきから延々テレビにかじりついて 盗撮した小学生の登校映像を眺めている夜宵さまがおっしゃっても」

「利益を生まないからいいのです」

「そういう問題なのでしょうか」

 

207

「雅巳さんは、解剖をしたことはあるのですか」

「医大生の頃から経験しているが」

「都市伝説みたいに、医大生って切った耳で『壁に耳あり』とかやったりするんですか」

「俺はやらなかったが、もちろんやってる奴はいたぞ。切った脚でチャンバラごっことかな」

「阿鼻叫喚ですね……僕には死体を弄ぶなんぞ 恐ろしすぎて考えられないです」

「人間、心の一線を踏み越えてしまうと何でも出来るものだ」

「雅巳さんは、どこら辺の一線を越えているんでしょうか」

「既に一線を越えていることを前提に話すんじゃない」

「雅巳さんなら人として一線を越えたシリアルキラーとも友達になれそうな気がして」

「どうだろう。考えてみるとそんな気がしてきた」

「否定しましょうよ」

 

208

「そういえばあなた いい年こいて人生において何の実績も持っていませんね」

「朝っぱらから心臓をえぐるようなことをおっしゃるのは相変わらずですね 夜宵さま。確かに資格らしい資格もなければ、立派な職歴もないですが……」

「そうですね。先日、私の知り合いが『六十になって家一軒建てられなかったなあ』とぼやいていましたよ」

「地味にきついですね、それ」

「人は勘違いしがちですが、人生は若い時の方が短いものですよ。若い時から地盤固めをしていないあなたのような人類の落ちこぼれは、もうヨハネの黙示録にある通り神に救われる十四万四千人の童貞として選ばれることを夢想しながら怠惰に生きて みんなにでくのぼうと呼ばれ 褒められもせず 苦にはされる そういうものにあなたはなりたい」

「なりたかねえ。なんなんですか、ま、まさか転職しろと!?」

「いえ、何となく言ってみただけですが、あなたの人生が詰んでいることに間違いはありませんね」

「夜宵さまの元に就職した時から既にわかっています」

「あら、キモい」

「僕の一生の覚悟をキモいで一蹴されましたね……」

「何か支障でも」

 

209

「あら豚、今お帰り?」

「あ、夜宵さま。お帰りなさいませ。僕も今戻ったところなんです」

「箱根に行ってきたんでしたっけ。カップルだらけの観光地によく男共で行く気になれましたね。ちゃんと白い目で見られてきましたか?」

「そんな視線はポジティブさで乗り切ることをここ数年で覚えました。僭越ながら、ルネ・ラリック博物館で購入した香水を夜宵さまへのお土産に献上します」

「ああ、ラリック社の……私もいくつか持っていますよ」

「え、そうなんですか」

「香水瓶のデザインは華やかですからね。眺めていて飽きないのです。庶民向けの香水をいただいたお返しに、あなたにもひとつ差し上げましょうか」

「ええっ……そ、そんな、いいのですか」

「ちょっとおふざけでオーダーメイドしたものなんですけど」

「おふざけでオーダーメイドしてしまえるものなのですか。ちなみにその香水は何と言う名前なのでしょう」

「名前は『屠場の豚』です」

「一瞬にして瓶の形状が伝わってくるネーミングですね」

 

210

「あら、豚。あなたの親類から招待状ですよ」

「あ、夜宵さまが郵便チェックなさらずとも……ああ、結婚式の招待状ですね」

「ねえ、あなたはのび太と似ている部分が所狭しとありますけど、他人の幸せを喜べるタイプですか?」

「所狭しとまではいきませんが、他人の幸せを喜べる時期はとうに過ぎました」

「そう……だんだん屠場の豚の心境に近くなってきたのですね」

「や そこまで死期を悟ってはいないですけど」

 


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