ひわの葉薬(トップ) > 夜宵さまと僕 > 191〜200


 

191

「ねえ……私が品行方正 純情可憐 清廉潔白な一年を貫き通していれば、クリスマスにはサンタさんが 広辞苑並の分厚さの全世界厳選美少年写真集をプレゼントしてくれると思いますか? 犬」

 

 質問の内容どうこうよりも、あまりに久しぶりに「犬」と呼ばれて一瞬だけ嬉しさを覚えた自分が、とても 憎い。

 

192

「某近未来格闘漫画のヒロインのごとく、私が『私のためにお前の命が欲しい』と告げたなら、あなたは素直に焼死しますか?」

「なぜ死に様がその一択のみなのですか」

 

193

「夜宵さま、先程から視線を感じるのですが 僕 何かいたしましたか……?」

「いえ ちょっと、あなたが食肉用として供給される予定の豚だとしたらどんな目に遭うかを教えてあげた方がいいかしら どうしようかしら そんな風に思っていたところですよ。生後数日でニッパーにより根本から歯を切断され、尻尾をブチ切られ、局部は引きちぎられ、それら全てが麻酔無しで流れ作業的に行われるという阿鼻叫喚の」

「……夕食のトンカツが お気に召さないということでしょうか」

「それもありますね」

 

194

「この部屋、暖房は入っているんですか」

「入ってはいるのですが、夜宵さまがお寒いのでしたら設定温度を上げますね」

「ええ、そうしてください。それにしてもこの寒さは『こんにちはぁ〜、ゆきこでーす。ゆっこって呼んでね!ゆっこちゃんね、最近彼氏たまとお別れしちゃったの。だから今すごーくさみしいの。いつもくすんくすんしてるの…こんな子でよかったら仲良くしてください♪うきゅっ☆』という内容の出会い系スパムメールの差し出し人プロフィールが四十歳だった時に似ていますね」

「……年齢は、コピペミスでしょうか」

「そうであってほしいですよね」

「……そうですね……」

 

195

「豚、そのヒゲを編んでもよろしいですか」

「……や 僕ぁヒゲ生えてないんですが……」

「エアヒゲで構いませんよ」

「エアヒゲ……?」

「見えないオシャレです」

 

 確かに見えないけれども。

 

196

「夜宵さまは、お好きなブランドなどおありなのでしょうか。ヴィトンですとノマドとかエピとかお好きでいらっしゃいそうですが」

「私の持ち物はほとんどオートクチュールなので、既製品を購入することがあまりないですね」

「さようでございますか……」

「見るのは好きですよ。定番ラインもいいですが、ちょっと弾けているものも楽しいですね。ルシアン・ペラフィネですとか」

「ああ、あのドクロや大麻の柄の……」

「あらいやだ豚の分際で私と同じ知識を共有しようだなんておこがましいにも程がありますね とりあえず床に這いつくばって部屋の隅のホコリでも舐めてブヒブヒ呟きながら恍惚としていればいいですよ」

「そこまで罪深いのですか僕は」

 

197

「あら、憂鬱そうな顔をして どうしたのですか」

「夜宵さま……いえ、実は、去年別れた彼女から『合い鍵を返してほしいから会いたい』というメールが着まして、どうしたものかと……」

「ああ、他の男と路上でディープなキッスを致している場面を直に目撃して別れたとかいう ある意味美味しい結末だった彼女ですか」

「美味しくはないですが、そうです」

「ムカつくのでしたら、鈍器を持参して頭でもカチ割って差し上げたらいかがですか」

「そんなことが出来たら僕は今ここにいません」

「……それは、どういう意味なのかしら?」

「! いえ! 夜宵さまに楯突くなどという大それたことは決して考えも! 思いもつきません! ほんと、本当に ちょっ 首 絞まっ……」

 

198

「あなたにとって私はどういう存在なのかしら?」

「江田島平八です」

「即答しやがりましたね」

 

199

「豚、メルヘンとメンヘルではどちらが好きですか」

「メルヘンです」

「そんな夢見がちなあなたに 諦め妖精ドウニデモナーレを召喚する方法を教えてあげましょうか」

「もう存じております」

 

200

「ねえ豚 有名な都市伝説に、こんなものがありますね。電車がホームに入って来たら一人の男が身投げして人身事故、吹っ飛ばされた首が偶然自分の近くに来てしまって思わずじっと見てしまったら生首が『何見てんだよ!』と叫ぶ アレです」

「ああ、ソレは確かに有名ですね。派生した話もよく聞きます」

「まあ実際には生首になった時点で気管の先に肺はないわけですから、言葉を発することなぞ出来ないのですが。ここでひとつ仮説を立てます。それは、この時生首は実際には『何見てんだよ』と言わなかった ということです」

「じゃあ、気のせいというわけですか」

「気のせいで叫んでいるように聞こえたら、聞こえた当人は恐らく精神疾患ですね。それは置いといて ですよ。1905年6月28日の囚人ランギーユの斬首実験からも明らかな通り、斬首された首は時々意識を有しているかのような反応を見せるでしょう。この生首がある数秒間だけ意識を有し、何らかの思念の声を見物人に向けたとしたら?」

「としたら?も何も、生きている人間さえ困難だというのに、どうやって生首が思念を飛ばすとおっしゃるのですか」

「そんなあなたに精神世界の閉ざされた暗黒の窓を開き他人の潜在意識へ入り込んで己の思念を飛ばし自由な意思伝達を成し得ることが可能な装置を今なら特別価格千九百八十円の十回払い、分割金利手数料はジャ○ネットた○たが負担でいかがですか!」

「そう来ますか」

 


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