ひわの葉薬(トップ) > 夜宵さまと僕 > 161〜170


 

161

「夜宵さま、最近たっくんの姿が見えませんが……」

「たっくん? 誰ですかそれ」

「こっ、この悪魔……ッ!!」

 

162

「夜宵さま、何故か最近夜宵さま宛に山のような数のラブレターが届いてるんですがこれはいったい」

「私の美貌と気品からにじみ出る魅力はグローバルスタンダードかつジェンダーフリーですから、そんな事態もさもありなんですよ」

「『いったいなにが起こったのですか』という根本的な質問にお答えにならないのは、何故なのですか」

「察しなさい」

「無理です」

 

163

「夜宵さ」

「お黙り」

 

164

「願い続けていればいつか夢はかなう なんていうセリフにだまされる輩は、そのセリフを吐けるのがほんの一握りの成功した人間だけということに何故気付かないのでしょうね。ねえ、犬」

「ねえ とおっしゃられましても」

「とはいっても、夢ばかり追っていた人間が何かの間違いで成功してしまうことがあるんですから、人生って理不尽ですよねえ。まあそういう人間が書いたり言ったりした言葉にだまされて更なるクズの拡大再生産が行われるわけですが」

「……ええと 今日はやけに陰湿なルサンチマンが煮えたぎっていらっしゃるようですが、一体なにがあったのですか夜宵さま」

「端的に言えば、かなわない夢を語るのは5歳〜12歳までの美少年だけにしとけって話ですよ。大福餅のような豊満なボディから酢酸の香りを漂わせている三十路越えが老母に伴われて訪れたハローワークで『将来の夢は声優ですにょ』とアニメ声で得意げにほざいている場面を目撃してしまったら、あなたも私のように殺意を抱くことでしょうよこの駄犬が!」

「ちょっ、いきなりわけのわからないことで激昂なさらないでください!」

 

165

「夜宵さま、ずっと気になっていたんですが この前ハローワーク行かれたとおっしゃってましたよね。ハローワークには夜宵さまのストライクゾーンに当たる美少年はいないと思うのですが」

「もしかしたらいい犬がいないかしら と思いまして。ほら 路頭に迷っている犬に現ナマで目を眩ませれば、白紙委任状にサインのひとつやふたつ書かせられますでしょう。それより私、この間 三浦しをんと三浦朱門を聞き間違えました」

「あの ものすごく気になることをおっしゃった後で軽やかに話題を変えないでください 僕クビですか クビなんですか」

「素で野口英世と夏目漱石が混ざるあなたにツッコミを入れられたくはないですよ。あなたの目にはヒゲしか映らないんですか このヒゲフェチが」

「断じてヒゲフェチではないですが、混ざるものは混ざるのです。……だ、だって! 僕、文学部じゃないですし……!」

「じゃあ理学部や芸術学部なら、近代文学の父と黄熱病研究者を合体させてもいいと言うんですか。まったくアクロバティックな思考回路ですね。ちょっとイベリコ? ここ一週間で買った本の名前を全部挙げてみなさい」

「……えっと『水はなんにも知らないよ』と 『メディア・リテラシー』と 『封印作品の謎』と 『変な学術研究1』と 『奇怪動物百科』と……」

「それだけ買っていて小説が一冊も入ってないとはどういうことなんですか」

「……どういうこととおっしゃられましても……僕、元々あんまり小説が好きじゃなくて い、痛い! のどぼとけをつねらないでください!」

「仕方のない犬畜生ですね。それでは今晩私が 世界の名作を厳選してあなたの耳元で朗読してあげることにしますよ。それでいいでしょう。満足なんでしょう」

「……満足度で言えばマイナス値ですが……念のためお聞きしますが、その名作というのはマルキ・ド・サド全集とかですか」

「おしいですね」

「おしいんですか!?」

「まあせいぜい楽しみにしているがいいですよ。美女に枕元で読み聞かせてもらうなんて、あなたの今後一生あり得ない事態ですよ。その極楽を甘んじて享受なさい。ククク」

「クククって」

 

166

 夜宵さまが、「これを食べて頑張って生きていなさい」と言い残して突然失踪(恐らくかねてからおっしゃっていたモルディブ七泊八日リゾート満喫ツアー)なさいました。

 夜宵さま 夜宵さま、人というものは 「みかんの皮と身の間にある白いところ」だけでは生きていけません というかなんで「みかんの皮と身の間にある白いところ」ばっかりバケツ一杯五kgもありやがるのですか これを食えと 一週間これだけを食えと。

 

167

「おかえりなさい夜宵さま。どちらにいらしてたんですか」

「あの世の地獄を見てきました」

「……この方でなく、あの方なんですか」

「あの方です」

 

168

「夜宵さま……その禍々しいCDは」

「知らざあ言ってきかせやしょう 北海道が生んだメルヘンキャラクター・まりもっこりのテーマソング『こりこりまりもっこり』byCORICORIです」

「いえ知ってますが。そして夜宵さまが何故それをご購入なさったのかも大体想像がつくんですが」

「というか ですよ。小学生三人組ユニットCORICORIが目当てでない人間が こんなもの買うとお思いですか。今時まりもっこりですよ」

「大半の消費者はショタコンではないですから、買うとしてもウケ狙いだと思いますよ」

「この不埒者!」

「ヒギャア ちょ は 鼻がもげる……!」

「現役小学生の! 甘美なボーイソプラノが! 児童ポルノ法だの青少年健全育成条例だのが幅を利かせるこの時代に! 誰はばかることなく『もっこりもっこり』と歌うんですよ! これに興奮せずして何が日本人ですか! そんなにもっこりもっこり連呼したら 貴様らのその青い果実を一粒残らず収穫してやろうか!という気になるじゃありませんか! 一足早い肉の収穫祭開催決定のファンファーレを鳴らしてやろうか!という気になるじゃありませんか!」

「いたたたたた 夜宵さま、せめて人の往来の激しいところでそういう 頭の中が桜満開な発言はやめませんか……!」

 

169

「夜宵さま。これが三日三晩寝ずに書いた 今までの夜宵さまの仕打ちに対する僕の思いをしたためた手紙です」

「ご苦労様。じゃ それ この場で燃やしてください」

 

170

「夜宵さま」

「なんでしょう」

「僕が夜宵さまにお仕えして五年目ですね」

「よかったですね」

「無関心にも程がなさすぎます」

「そうですね。五年経ったのですから、突然背中が割れて中からぬらぬらした裸体の美少年が!とかいうビックリドッキリシチュエーションくらいあってもいいんじゃなくて」

「その場合 割れるのは僕の背中なんですか」

「腹を割ったって構いませんけど。その場合は二文字の方で」

「割腹……!?」

 


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