ひわの葉薬(トップ) > 夜宵さまと僕 > 151〜160


 

151

「ねえイベリコ。いらなくなった道具に命が宿って復讐に来るのが『付喪神』という妖怪でしたっけ」

「おおむねその通りですけど、付喪神がどうかなさいましたか」

「ええ。実は随分前に私が捨てたお財布(注:金ヅル男)が復讐を企んでいるようで」

「いやそれは付喪神じゃなくて単なるストーカーですよ。早く警察へ通報しましょうよ」

「大丈夫です。復讐を企んでいるとはいえ相手は所詮ゴミですから燃やしてしまえばノー・プロブレムです」

「十分プロブレムです」

 

152

「あれ、夜宵さま。この清掃員風の制服は一体」

「まあいわゆるコスプレ用衣装ですよ」

「えっ……清掃員のコスプレをして一体どんな快楽が得られるのですか」

「お馬鹿。清掃員はどこにでも忍び込める特権階級でしょう。更衣室でもトイレでも寝室でも入りたい放題ですよ」

 

 それって。

 

153

 先日 夜宵さまが「パーティーに行ってきました」とおっしゃいました。

 普段ならば絶対にそんな瑣末な日常茶飯事を口にしない方ですのに一体いかがなさったのでございましょうか と思い尋ねてみましたところ「なんだか出席者がすごい方ばっかりで、一国の女王ですとか SPに 刺青男 人気バンドのボーカリスト あと陰陽師もいましたね」と興奮気味に語っておられたのですが 人はそれを「夢」と言うんじゃあなかろうか。

 

154

「ねえイベリコ……私、ずっと『ヤンデレ』は『ヤング・イズ・デリシャス』の略だと思っていたんですが」

「……それじゃあ、『ヤンデリ』では」

「あら、『ヤンデリ』は『ヤング・デリバリー』の略でしょう?」

 

 「それは幼児買春ってことなんですか」と聞けない自分の臆病さが恨めしい。

 

155

「たとえばある日気まぐれにギリシャ神話なぞを読んでいたあなたが突然ナルキッソスの精神に目覚め、鮮やかな水仙の花ではなく現代芸能界の華となろうと無茶な野望を抱いて美容整形を敢行したところ大失敗し、美とは反対方向のベクトル つまりビル・ダークスやグレース・マクダニエルもびっくりな醜悪な容貌になってしまったとしたら、私はあなたを世間に犬として認知させたのち世界一醜い犬コンテストに出して差し上げるのに」

「や そんな凄惨な期待をされましても」

 

156

「バファリンの半分は優しさで出来ているのなら 世の中の半分は何で出来ているのでしょうね。あなたはどう思います? 犬」

「『犬』って……ええと、わかりませんが、とりあえず夜宵さまの半分は厳しさで出来ていると思いますよ」

「そうね。残り半分は何かしら。まゆげかしら」

「何故」

 

157

「夜宵さま、さすがに朝から晩まで美少年の盗撮DVDを編集なさるというのは 身体にも法律にもよくないと思います」

「貴様が私の行動に口をはさむ権利などノミのつま先ほどもありません。閣下風に言うなら『お前を宮刑に処してやろうか!』ですよ」

「閣下はそんな違う意味で恐ろしい脅迫はしないですよ」

 

158

「夜宵さま 初詣では何をお願いしたのか伺ってもよろしいでしょうか」

「願って叶う望みならキャッシュで億積んでもかまいませんが、私を満足させられる神がいるとは思えません」

「世界中の美少年をはべらせたいとか そんな感じの望みでしょうか」

「そんなわかりきった質問をして楽しいんですか? イベリコ。新年早々お気楽な犬野郎ですね。顔面に百五十個のピアス穴を開けてあげましょうか」

「なんで新年早々そんな新境地を開拓せねばならないのですか僕は」

「あら、その貧相な面構えに少しは華を添えて差し上げようという私の麗しい慈悲心をそのように無下にするとは、しもべの風上にもおけませんね。ゲイ人なら身体張りなさい」

「今故意にイントネーションを捻じ曲げませんでしたか夜宵さま」

「なんのことですか」

 

 

159

「ねえイベリコ。時代は百合を求めているのでしょうか」

「……唐突ですね夜宵さま。花屋の客なら求めているかもしれませんが」

「……まさかとは思いますが、あなた 百合の意味を知りませんの? この間エロ本大量購読のちに感想を書けと言ったような覚えがあるんですけど」

「そういう忌まわしい思い出は記憶の泥沼に沈めることにしておりますので……で、百合ってなんですか。隠語か何かなんですよね?」

「…………」

「……あの、何故そんな かわいそうなぞうを見るような目で……」

「まあ、あなた自分がぞうに匹敵する地位にいるとでも思っているの? ツラの皮の厚さだけはぞう並ですね、土下座して謝りなさい」

「なんでそうなるんですか……って、痛い! ハエたたきで殴らないでください! 地味に痛い!」

「まあ、今度はハエと同格とでも言いくさるのね。そのあつかましい口はどこですか。ここですか」

「ぎゃああ! なんでヒトのズボンのファスナーを下ろそうとしてやがるんですか! そしてなんで百合の話からこんなことに!」

「すべては私の気分次第です。とりあえずこの場で土下座しなさい イベリコ」

「や ですから何故!?」

 

160

「Please play with me by the hand……和訳して御覧なさい」

「え、僕は英語が苦手なのですけど……ええっと、『私と手を取って遊んでください』ですか」

「そう。そして『その手で僕を弄んで』とも取れますね」

「夜宵さま、何故わざわざ一人称を変更して和訳なさるのですか」

 


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