ひわの葉薬(トップ) > 夜宵さまと僕 > 131〜140


 

131

「明けましておめでとう イベリコ。相変わらずおめでたい頭のあなたでもドリームボックスってご存知?」

「明けましておめでとうございますが、新年早々何故そんなことをおっしゃられなければならんのですか僕は。ドリームボックスですか。セガの次世代ゲーム機のような名前ですね。存じ上げませんが」

「現代日本では年間約四十万頭以上の犬猫がドリームボックスと呼ばれるガス室で処分されているのですよ。殺処分対象にならずとも動物実験用として研究機関に無償払い下げが成されたりですとか」

「……ええと 夜宵さまは何をおっしゃりたいのでしょう」

「そんな現状も知らずに戌年だなんだと浮かれ騒いでいるような輩は今すぐ腹を切って死ぬべきであると思いません?」

「美しく微笑みながらどこかの唯一神みたいなことをおっしゃらないでください」

 

132

 いつものように掃除をしておりましたところ、パソコンに向かっていらっしゃる夜宵さまに呼ばれまして 行ってみたら画面いっぱい どこの誰とも知らない人の血まみれリストカット写真がズラリ

 涙目でうずくまっていると後ろから夜宵さまがクスクス笑う声。「今年は戌年ですからペース上げていきましょうか」とか訳のわからないことをおっしゃっています。何のペースですか いや 聞くまでもない。

 

133

 ねえイベリコ あなた今からキリスト教徒に改宗しません?と微笑む夜宵さま。

 とりあえず僕は神道なのですけど何故今そんな とあからさまにうろたえる僕。

 ほら キリスト教徒的には「右の頬を打たれたなら左の頬を出しなさい」という姿勢な訳でしょう ねえ と微笑みつつ右手を振りかぶる夜宵さま。

 土下座する僕。

 そんな年始。

 

134

「夜宵さまはお気に召さない男性から告白された場合 どう対処なさるのですか」

「そうですね。どれだけ金を持っているかによって断り方も違いますね」

「……持っていない場合は」

「失せなさいゴミムシ です」

「持っている場合は」

「ごめんあそばせ、私は人間以外とお話ししたくございませんの です」

「いずれにしても相手を人扱いされないのですね」

 

135

「そういえば夜宵さまはアニメの少年などにもご興味が」

「あるに決まっているでしょう。赤銅鈴之助からNARUTOまで隈なく語れますよ」

「ゴールデングローブ賞ものの守備範囲ですね」

 

136

 痴漢に遭いました畜生。

 一昨年の六月頃にもバスで痴漢に遭いましたが、今度は路上です。心底凹みます。何故二度も痴漢に遭わなきゃならないんですか僕は。もう富士山とか爆発すればいいよ。

 肩落として帰ってきますれば そんな僕の様子に夜宵さまがお気づきにならないはずもなく。

 

「あらどうかしました? イベリコ。顔色がおたまじゃくしのようですよ」

「どんな顔色ですか。只今帰りました。失礼します」

「お待ちなさい。事情をお話しなさい」

「痛い痛い! 後ろ髪ひっつかんで呼び止めるってのはドウなんですか! いえ あの、……ち、痴漢に遭ったんですよ」

「痴漢? また?」

「……またですけど」

「前回はおっさんでしたけど今回は誰に?」

「すぐ逃げてったのでよく見ませんでしたけど……詰襟の学生服でしたよ……」

「ほう……思春期の青少年を誘惑するとは、なかなかやりますねイベリコ」

「誘惑しちゃいませんし、したくもありませんよ。ああ落ち込む。なんで僕ばっかりこんな目に。なんでよりにもよって詰襟の学生に触られにゃならんのか畜生みんな死ねばいい夜宵さま以外」

「先手を打ってフォローしましたね。つまらないわ。まあそう悲観することもないでしょう。今度はちゃんと相手をひっ捕らえるのですよ。そして美少年だったら舌なめずりしながら『フフフ、悪い子だなあ。悪い子にはお仕置きが必要ですよね』などと言いながら麻酔を注射し私の家のガレージへ ちょっとどこ行くんですイベリコ」

 

137

『十七歳の地図』なんていう写真集があるなら、『九歳の日本地図』だとか『十一歳の世界地図』があってもいいと思いません? イベリコ。そんな素敵なガイドブックが発売されてしまったら私 刷られた分だけ買占めて世界一周美少年撮影ツアーを敢行してしまいそうです。世界各国の美少年撮影し放題。屋内でも屋外でも見つけ次第手っ取り早くお菓子やお金でおびき寄せて」

「夜宵さま夜宵さま、アジアへ幼児買春に行くクズと紙一重ですよ」

 

138

「正直言いますとね、私は少年同士の青い性愛にはあまり興味ないのですよ」

「夜宵さま、『おれの墓で踊れ』をお読みになりながら仰っても説得力ございませんよ」

「読み込まない内に投げ出した分際でこの本を単なる同性愛の物語と捉えている時点であなたの目はウオノメ決定ですよイベリコ」

「……あの、僕、そういう本は 小学生の頃に『ビリー・ミリガンと23の棺』を読んで以来トラウマになって」

「やはり少年の魅力をいかんなく発揮するのは友情物語ですよね。『トムソーヤーの冒険』『十五少年漂流記』『スタンド・バイ・ミー』『銀河鉄道の夜』『エイジ』などなど、絡み合う人間関係の中で少年が少しずつ熟していくさまを観察するのもまた格別の…………………………何か言いたそうね、イベリコ」

「……夜宵さま……そういう流れでそういう作品群をあげつらうのは人としていかがなものでしょうか」

「こういう流れだからこそこういう作品群をあげつらうべきでしょう。第一あなた、児童文学にしろポピュラー文学にしろ少年少女の成長及びその生活が主題の作品を除外してしまったら、泥沼グチャグチャの人間関係かただ単に性愛描写が延々続く純文学もどきしか残りませんよ? これだから無茶無謀バカ爆発のミスターどん底は困りますね」

「いやそんなことはないと思いますが、それよりも何よりも夜宵さまの罵詈雑言の語彙がどんどん豊富になっているような」

「私は常に進化しているのですよ、イベリコ」

 

 大変嫌な方向への進化ですね。

 

139

「ねえイベリコ? あなた呪術に詳しかったですよねえ」

「大して詳しくはありませんし呪い方をお教えすることも出来ませんが、どなたを呪うおつもりですか夜宵さま」

「お馬鹿。私があなたごときの手を借りて誰かを呪わなければならないような身分だとでもお思い? もう、お馬鹿」

「……いえ」

「第一あなたに教えてもらわなくたって呪殺なぞ朝飯前です」

 

 呪「殺」って一体誰を

 

140

 明日の三月三日 ひなまつりに先駆けて 夜宵さまは僕に雛壇の飾りつけをお命じになったのですが いくら捜してもお雛様と三人官女がおらず困り果てて夜宵さまにご報告申し上げたところ「はあ? 私の愛でる雛人形において美少年人形以外は目障りなだけでしょうが犬」と足蹴にされまして そういやあこのお内裏様や五人囃しはみな妙に若い というよりもむしろ見た目は完全にお稚児さんでしたねこん畜生と思いました よ。

 


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