ひわの葉薬(トップ) > 夜宵さまと僕 > 121〜130


 

121

「ねえイベリコ? 世の中にはどうして美少年だけを集めて後宮を造った女帝がいないのかしら」

「夜宵さまのような方が少ないからですよ」

「けど、自分好みの美少年を好きなだけはべらせるというのは人類全般の夢でしょう」

「夜宵さま、御自分を全人類と思わないでいただけませんか」

 

122

「おはようイベリコ。ところで、億万長者のハードゲイと 体長二mの巨大ムカデ人間と セーラー服を着た私。一人だけもらえるとしたら誰を選びます?」

 

 頭を抱え込んで悩んでいたら、しなやかな回し蹴りをくらいました。

 

123

「……夜宵さま、あの、何故セーラー服をお召しなのですか」

「誰がイメクラのコスプレですか、え?」

「言ってません言ってません痛い痛い痛い! 足、踏んでます 踏んでます というか、コスプレという自覚があるのならおやめくださいそんな格好」

「まあ私ほどの優雅な美貌の持ち主ならばセーラー服がコスプレ状態なのもいたし方ないという訳ですよ。けれど私はこれからたっくん(十歳)とデートなのです。少しでも凡百の庶民に溶け込もうとしている私の努力を褒め称えてみたらいかが?」

「セーラー服が庶民的かどうかは置いておいて、そんな無謀な若作りなど空しいだけですよ夜宵さま」

「よほど三途の川が渡りたいようね、イベリコ」

 

124

「夜宵さまは、時々突然長期出張なさいますよね……毎回毎回 心臓に悪いので せめて書き置きを残して頂きたいのですが」

「面倒くさいから嫌です。まあいつもがいつも出張でなく、本宅に帰ったりもしてますけど」

「ほ、本宅ですか?」

「使用人が居過ぎるのであまり帰りたくないのですよ。かといって人を減らせば屋敷を維持出来ませんしねえ。私の美貌と命を守るためですから仕方ないと言えば仕方ありませんが」

「初耳なんですが、誰に命を狙われていらっしゃるのですか夜宵さま」

「あら、あなた 想像つきません?」

「……いえ、むしろ心当たりだらけですけど……」

「でしょう。もう私ほどの美しさになれば妬み嫉み僻みやっかみだらけで大変なのですよ」

「……さようで ございます か……」

「何ですかその奥歯でアルミホイルを噛んだような顔は」

「いえッ! いえッ! 決してそのようなことは!」

「この世から解雇されたいのかしら? イベリコ」

「再雇用の見込みゼロじゃないですか。いえ、そんなんでなくてですよ。使用人が居過ぎて居心地悪いとはいえ、そんな豪華な本宅がおありですのに何故こちらにいる時間の方が長いのでいらっしゃいますか」

「私の趣味は動物愛護ですからね。まあここに来るのは犬小屋にポチを愛でに行くようなものですよ」

「あっさりとスゲェこと言われたような気が」

「あら、全然すごくありませんよ。ナチュラル極まりないですよ」

「ナチュラルだからすごいんですよ」

 

125

「この世で一番勇気のある人といったらやはりアンパンマンですよねえ イベリコ」

「人かどうかそもそも疑問ですが、何故アンパンマンなのですか夜宵さま」

「あら。あなただったら直立二足歩行で人語を解するカバやらウサギやらカレーパンやらに『僕の顔をお食べよ!』と言えて?」

「色々言いたいことはございますが、そもそも僕の顔は食べられません」

「食べられないのですか。乾燥剤ですか。シリカゲルですか」

「なっ、いや、乾燥はしてますけど そりゃ!」

 

126

「そういえばイベリコ。みくるちゃんとはどうなってますの」

「また随分となつかしい名前を出しますね夜宵さま……向こうも飽きたのか、最近では何もないですよ」

「まあ。最近ってことはそれ以前に色々と口には出せないことがあったのね」

「夜宵さまが想定している系列とはまったく別の意味で色々とありましたけど、夜宵さまはたっくんとはどうなんですか」

「私にたっくんを語らせたら二日は寝かせませんよイベリコ。まずは地球誕生の話に遡りましょうか」

「遡りすぎじゃないですか」

 

127

「最近では『元彼』と書いて『モトカレ』とも『モトカノ』とも読ませるそうですね。ところでイベリコ、あなたの元彼は元気?」

「……夜宵さま、発音が前者になってますけど」

 

128

「イベリコ。あなたは今年も一人きりのクリスマスですか? 兄は夜更け過ぎにYUKIへと変わるだろう(勤務先:新宿二丁目)ですか?」

「一人きりのクリスマスは確定事項ですが、山下達郎『クリスマスイブ』の歌詞が壊滅的に間違ってますよ夜宵さま」

「独り寝の寂しさに枕を濡らすのが毎年恒例でしょうと思って、私は今年のクリスマスの予定を空けておいたのですよ。今年は二人きりのクリスマスイブですよ、フフフ」

「ゲフゥ!? 聞いてないんですけど!?」

「言ってませんから」

 

129

「子供殺しに虐待事件。世の中殺伐として責任感のない人間が多くなったものね、イベリコ」

「まあ犯罪発生件数は徐々に減ってきているとはいえ戦後最高値を行ったり来たりですからね。平成十六年度の刑法犯認知件数は昭和二年の五倍近いですし。とはいえ戦争前後 特に戦後のGHQ占領下にあっては犯罪認知などまともに出来た状態ではなかったでしょうが」

「こういう話題になると嬉々として語りだしますね。うざ」

「それだけが取り得ですから。うざとか言わんでください」

「言いたくもなるってもんですよ。世の若人が車やら服やら彼女やらにうつつを抜かしている時にあなたは絶世の美女に向かって犯罪発生件数をとくとくと」

「ぜ、絶世の美女?」

「よりにもよってツッコむ場所が そこか え?」

「ギャアしまった!」

 

130

「イベリコ、ちょっとおいでなさい」

「なんでしょうか夜宵さま。パソコンの前になどお座りになって、ネットで何か面白いモノでもお見かけされたのですか」

「見目麗しい女子の写真であなたの愚脳を保養してやろうと言うのじゃありませんか」

「一瞬すさまじい画像かと身構えましたけど、本当に女の子の写真ですね。どこからこういうサイトを……ああ ところで夜宵さま 写真ページの一番上に『ニューハーフ』という文字があるのですが」

「男だろうが何だろうがいいじゃありませんの。みんな可愛いんですから」

「……確かにみんな可愛いですね。そう言われなきゃ男だってわかりません。すごい。うわ、この人 同い年だ。しかもすごい美少女」

「元々の資本も関わってくるでしょうが、あなただってやればこれだけ出来るはずですよ」

「なんですかその話の持って行き方は」

「だからクリスマスには私の倒錯した楽しみのために身体張ってもらいます」

「倒錯しているってわかってるならやめてくださいよ いや その前に何をさせるおつもギャア!? いきなりのどぼとけをつかまないでください!」

「この私の知力と財力を総動員してあなたを素敵なサンタガールにしてあげましょう。あなた程度のツラでも化粧とエステで見違えるほどになりますよ。ああ楽しみ。光源氏のように理想の乙女を養育するのも良いですが、美少女改造計画を遂行するのもまた格別ですねウフフフフ」

「し しませんよそんなこと! 何が悲しくて恋人たちのクリスマスに女装なんぞせにゃならんのですか!」

「ではあなた 私一人にそんなコスプレもどきの格好をさせるつもり?」

「夜宵さまもなさるんですか!?」

 


戻る