ひわの葉薬(トップ) > 夜宵さまと僕 > 101〜110


 

101

「っていうか、そんなこと言ってしまったら 力士はみんな勝負下着ですよねえ」

「っていうか、そのセリフの前に一体どんな話が繰り広げられていたのか説明してください 夜宵さま」

「いやです」

 

102

「退屈ですね。イベリコ、ちょっと舌でも噛みなさい」

「暇つぶしに処刑宣告なさらないでくださいよ。イヤです」

「だったら江戸川乱歩の名作『少年探偵団』シリーズに出てきたあのトリックを使って絵画の窃盗を予告するのはどうですか」

「夜宵さまがおっしゃると『少年探偵団』シリーズが微妙に汚れる気が、……うっ」

「……ほう、あなた いつからそんな口が私に利けるようになったのかしら? 生体絨毯にしますよ」

「背中を踏まないでください! 折れる! ボッキリいく!」

「まあちょっと新聞社に予告文を送りつけるくらいでしょう」

「だいぶえらいことですよ それ。そのトリックってなんなのですか」

「あら あなた、『少年探偵団』シリーズは『銀河鉄道の夜』や『車輪の下』と並ぶバイブルですよ! 読んだことがないのですか!」

「バイブルはバイブルでもそれは夜宵さまのようなショタコンの方々にとってのバイブルでしょう……たとえばどんなトリックがあるのですか」

「全身黒ずくめで、暗闇の中 金色の服を一枚一枚脱いでいって透明人間を装うとかあったような気がします」

「懐中電灯向けられたら終わりじゃないですか、それ」

「だからいいんじゃありませんの」

「もしかして僕をブタ箱にブチ込もうとしてませんか夜宵さま」

 

103

「まあイベリコ、ヘソ出しルックなんかして頭でも沸騰したのですか。このセクシーダイナマイツが!」

「朝っぱらから訳のわからん難癖つけんといてください夜宵さま。ちょっと上着がズレただけじゃないですか。ていうか、セクシーダイナマイツって」

「ズレるのはカツラで十分ですよ」

「カ、カツラなんかしてませんよ! 地毛100%ですよ!」

「フン。ヅララーが自らヅラを暴露するはずありませんから、どうだか」

「ヅララーってなんですか。いや、地毛ですからね? ちゃんと」

「どうしても地毛だというなら、ちょっと今 取り外してみなさい」

「や、地毛だったら普通は取り外せないと思いますよ」

「大丈夫です、私はあなたをやればできる子だと思っています」

「何が大丈夫なのですか」

 

104

「ふふ……五月五日の少年の日が間近いですね。もう私の時代でしょう!」

「夜宵さま、五月五日はこどもの日です。お願いですから警察権力にだけは逆らわないでくださいね」

「愚民以下の駄犬は穴でも掘って吼えていることね!」

「や、夜宵さま!?」

 

105

 前略 母さん。お元気ですか。僕の方は、元気なのではないかと思います。

 先日 体重をはかってみた所 就職する前と比べて、八kg痩せました。

 ダイエットをした覚え ないのですけど。

 追伸。ご主人さまは、今日 婚約者(十歳)と一緒に熱海旅行に行かれました。とても心配です。相手の男の子が。

 

106

「この世って男尊女卑なのか女尊男卑なのかわかりませんよねえ」

「今こんな状況に陥っている僕が申し上げるのもなんですが、社会的には男尊女卑の方が目立つ気がしますよ」

「あら、でも『私の彼女』と『僕の彼氏』という表現の間にある埋めがたい差はやはり女尊男卑でしょう」

 

 こういう場合 僕は何と答えるべきなのでしょう。

 

107

「イベリコ。ちょっと面白いデータが手に入りました」

「なんですか。国民総数における美少年の割合とかですか」

「それ、いただき」

「ちょ、何をメモってらっしゃるのですか夜宵さま。危険なことには流用なさらないでくださいよ」

「それはそれとして。この表は、エイズが流行り始める前にサンフランシスコで採取されたデータです。男性同性愛者と女性同性愛者の経験人数の違いで進化心理学を検証してみようということで実施されたのですけど」

「あの さっぱり意味がわからないのですが」

「一般には男性の方がよりたくさんの性交渉を持ちたがる傾向があると言われていますよねえ。なら男性同性愛者はそりゃもう野郎同士ですから本能の赴くまま のべつまくなしにGO!GO!マッスル!なんじゃあないかという仮説がたてられまして。それを検証するために、データが取られた訳です」

「ものっすごい偏見ですね」

「ところがどっこい、採取されたデータによれば男性同性愛者でそれまでの経験人数が四ケタが28%。三ケタが75%という数字に昇ったのです」

「よ、よ、よ、四ケタ!?」

「ちなみに女性同性愛者は四ケタが0。三ケタは2%でした。また、男性同性愛者で決まったパートナーがありながら浮気をする率は女性に比べて格段に高いそうですね。さあここから導き出される結論はなんでしょう? So what's the one conclusion I can bring this number to ?」

「何人がそのネタわかるとお考えですか夜宵さま……ええっと、要するに男は獣ってことですか?」

「そうですね。獣ですね。というか、下半身ですね」

「いや、一応上半身もありますから」

「そんなハリボテも同然の上半身なんてあってなきがごとしですよ?」

「ですよ?と念を押されましても……」

「そこで私は考えたのです。殿方は獣であるなら人間に服従させる必要がありますよねえ」

「夜宵さま、既に男性が人であるという前提条件が崩れていますよ」

「私 今まで服従させるためには首輪が一番いいと思っていたのですけど、殿方の実体が下半身ならその実体を拘束してしまえばいいということです」

「あの、や、夜宵さま? それは一体……」

「鋼鉄パンツです」

「まさか今までの前フリはすべてソレのためですか」

「何か問題でも」

「そもそも論理展開からして大問題ですよ夜宵さま。何が悲しくて僕ぁ 21世紀の現代日本でそんなものをつけねばならないのですか」

「恨むなら獣に生まれた運命を恨むのですね」

「いや、僕、人ですから! 一応!」

「そんな風に嫌がっていますけど、面白いのですよコレ。スイッチを押すと前からこんな風に白鳥の頭がボヨーンと飛び出て」

「そんなビックリドッキリギミックが一体何の役に立つのですか」

「女の子にモテたりとかするんじゃありません?」

「どんな美形でも下半身がそれだったらまごうことなき変態です」

「こういうのに萌えな婦女子はそれなりにいるんじゃないでしょうか」

「そういった方々に萌えられるのと喜び組に加入するのとどっちがいいかと言われたら判別つきかねますよ」

「要するに否ってことですか」

「いや 当たり前じゃないですか!」

 

108

「お帰りなさいませ夜宵さま」

「ただいま。今日もたっくんはラブリィでしたよフフフ」

「帰って早々怪しげな発言をなさらないでください。おや、その本は一体……」

「これですか。たっくんと一緒にいたみくるちゃんから、あなたにと何冊か預かって来ました。是非読んでくれとのことづてです」

「……へえ どれどれ……」

 

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「……小学生なのになかなか高度な嫌がらせをしてきますね みくるちゃん」

「まあ。嫌がらせでなく真心かもしれないじゃありませんの」

「どちらにしてもすげぇ嫌です」

 

109

「おはようイベリコ。ところで明治期に男色が大流行したのは知ってますか」

「おはようございます夜宵さま。存じ上げませんが、それよりも朝っぱらから嫌な真実に直面して目覚めは最悪です」

「あなたの目覚めなどジャムおじさんの中身が何ジャムなのかという疑問くらい興味がありませんね」

「ジャムおじさんの中身はジャムでなくて脳髄だと思いますが」

「徳冨蘆花が美少年だった頃はそりゃもう大変だったそうですよ」

「無理やり嫌な話題に戻さないでくださいよ」

「江戸川乱歩も大変だったそうですね。だから小林少年はあんなにも少年愛者の心をくすぐるのでしょう、ね?」

「ね?と言われましても……」

「谷崎潤一郎なんか、美少年真っ盛りの年頃におっさん軍人に誘拐されそうになったそうですよ」

「ええっ!? 軍人のくせに!」

「そう考えると谷崎作『痴人の愛』が非常に意味深になりますよね。実はナオミは少女ではなく美少年で! そして谷崎に影響されていた江戸川乱歩だったりとか! リアル少年探偵団ごっこを!」

「いや、意味深にしてるのは夜宵さまの妄想力でしょう」

 

110

「夜宵さまは、僕のことがお嫌いですか」

「何ですか突然。頭にウジでも湧きましたか」

「いえ、どう考えても夜宵さまは僕のことが憎いとしか思えないような仕打ちを次々繰り出してこられるので、それならば何故僕をお雇いになっておられるのかと……」

「……イベリコ? その冗談は一体どこが笑い所なのかしら」

「夜宵さまに冗談を言えるような身分ですか、僕は」

「いいえ」

「きっぱり否定なさいましたね……」

「と、いうか、そもそもですね。あなたは今までの生活で私に好かれているとお思い?」

「……いいえ……」

「ならそんなエス・エイチ・アイ・ティーな質問をする必要はないでしょう。我が家の生類憐れみの令を解除しますよ、このポチ丸が」

「……ええっと、なら、よけいに不思議なのですけど。どうして夜宵さまは僕をお雇いに……」

「そうですねえ。そこら辺の蟯虫にでも聞いてみたらどうですか」

「いませんよ蟯虫なんて」

「あなたの腸にならいるんじゃありません? クス」

「だからいませんて!」

 


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