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91

「節分ですねえ。さあ豆を力いっぱい親の仇へ投げるように遠投しましょうか」

「そのたとえはいかがかと思いますが、まきましょうか夜宵さま」

「ところでイベリコ、知っていますか? 節分の豆まきの起源は中国で儀式化していた追儺(ついな)と日本の儀式が融合して豆をまくことになったのですよ」

「ああ、寺社が行う厄払いの儀式と追儺が合成されたんですよね」

「その通りです。で、追儺は元々、鬼に見立てた人間を弓矢で追い回す儀式でした」

「昔の人は野生的ですね……」

「追儺は日本の宮中でも行われていたんですよ。和弓の殺傷力は素晴らしいので死人も出たでしょうね。……そしてそれとはあまり関係なく、明治に入って途絶してしまった弓を使って獲物を追うという儀式的行事に犬追物(いぬおうもの)というものがあるのですけど、ご存知かしら」

「や、夜宵さま!? 人を殺せる目になってますよ!? 豆を振りかぶらないでください!」

「元は鎌倉時代に始まった武士の伝統的武術訓練の一つでしたが生類憐れみの令以降は急速にすたれた犬追物と、追儺が融合したら面白いと思いません? ねえ」

「で 的になる犬は僕以外いるんですか」

「……フフ……そのセリフは自分が犬であることを認めたものとしてよろしいのですね、イベリコ?」

「うわっ、なんだか物の見事に揚げ足を取られた気が!」

「フフ、さあ 追われなさい! 犬!」

「(や、夜宵さまのスイッチが入った!) い、痛ッ! なんか妙に痛い! 夜宵さま、それ豆じゃなくてパチンコ玉ですよ!?」

「大丈夫です。ケガしたら私がすみずみまで看病してあげますよ。クス……」

「いや『クス』でなくて!」

 

92

「夜宵さまは今までモデルなどのスカウトをされたことはございますか?」

「まあ人並みに」

「え、初耳です。スカウトされている時点で人並みではないと思いますが、何故今まで黙って……」

「私は自分から自慢するのは好きじゃありませんので。それに、スカウトされた程度で舞い上がるような安っぽい女でもありませんし、あなたにそんなことを言ったからといって世の中のすべての美少年が私のものになる訳でもありませんから言わなかっただけです」

「……さようですか……では、芸能活動をなさったことはあるのですか?」

「いえ、ありません。私、面倒くさいことが嫌いですから、そんな、芸能界のような伏魔殿に自ら足を踏み入れる訳がないじゃありませんの」

「雑誌のモデルなどもなさったことがないのですか?」

「ないですけど、そういえば昨日街中を連れのお財布(注:金ヅル)と一緒に歩いていましたら、『街角お嬢様特集』という頭の悪そうな企画で写真を撮らせてくださいとほざく輩に出会いました」

「え、『街角マダム特集』でなくてですか」

「靴 舐めさせますよ、イベリコ」

「も、申し訳ございません! あ、でも、撮影はお断りなさったんですか?」

「ええ。私、街中をごくまれに一人で歩いていますと必ずスカウトだのナンパだのに声をかけられますからね。顔を売ってこれ以上目立ちたいとは思いません」

「まあ確かに夜宵さまは目立ちますよね」

「けど、目立ってもいいことなんてありませんよ。常に自分のあずかり知らぬところで後ろ指さされてる訳ですから、気にしだすとキリがありません。腹の立つことも多々ありますし」

「腹の立つことですか? まさか、痴漢だとかセクハラだとかですか」

「まあそういったのもありますけどね。私に手を出したら最後ですよ。色々な意味で」

「……さ、最後 ですか?」

「ですから痴漢などはあまり気にしたことはありません。一番腹が立つのは、あれです。無責任な言葉です。たとえば先日、ニキビ面の男子中学生三名がこそこそと私を指さしながら『さくらたんを100点としたらアレは何点くらい?』『え? ……60点くらいじゃね?』などとほざいておりましたよ」

「ごっつ腹立ちますね」

「まあ私が何か言う前に連れのジョンとボブが胸ぐらつかみ上げてましたのでいいんですけど」

「いやちっとも良くないと思いますよ!? 一応 演技でも止めてくださいよ!」

「あ、でも、『逝く手前でやめなさいね』とは言いましたよ」

「夜宵さま、それ ちっとも止めてないです」

 

93

「あ、お帰りなさいませ夜宵さま。遅かったのですね」

「ええ。ちょっと手の指を骨折してしまいまして、病院に行っていました」

「ええええええ!? だだ大丈夫なのですか!?」

「騒々しいですね。もう病院に行ったのですから大丈夫です」

「さようですか……しかし、どうしてまた骨折など」

「ええ……ほら、人間の鼻骨って硬いじゃありませんの」

「誰を殴ったんですか夜宵さま」

 

94

「髪染めようかなあ……」

「オタクが髪染めてもキモいだけですよイベリコ」

「独り言を一刀両断しないでください夜宵さま」

 

95

「おはよう、イベリコ。随分と肌つやが悪いようですからニスを塗ってあげましょうか」

「おはようございます夜宵さま。僕は小学生の紙粘土細工ではないので遠慮申し上げます」

「面構えは大差ないと思いますけどね」

「あ、ありますよ、多分!」

 

96

「イベリコ、この中で誰が一番あなたのタイプ?」

「夜宵さま、それ 犬の写真集ですよ」

 

97

「夜宵さま、わざわざアメリカ・イギリス・フランス・ドイツ四ヶ国から大量のカミソリレターが届いているってどういうことですか」

「そんなことより送り返すチェーンメール書くのを手伝いなさいイベリコ! まったくどいつもこいつもゴミ虫が」

「や、夜宵さま?」

 

98

「イベリコ、牛乳を拭いて一週間経った雑巾とブッシュ×フセイン21禁ハードやおい本を私と観賞するのとどちらが良いですか」

「どっちもイヤですが、なんでそんなもんが我が家に存在するのですか」

「雑巾の方ですか? やおい本ですか?」

「どっちもです」

 

99

「よう、イベリコ。俺の家のベンツを知らないか。逃げたらしいんだ」

「知ったこっちゃありませんが、ベンツなんてそんな高級外車をどこから手に入れたんですかヤブ医者の雅巳さん。あと、僕の所に来るよりも被害届を出した方がいいと思います」

「多分まだ医師免許剥奪されてないからヤブじゃないと思うんだが。……あっ、なんだ、お前の家の庭にいるじゃないか。まさかこんな所まで逃げてくるとは」

「庭にって、ベンツなんか停まっていませんよ。あっ、雅巳さん 何をしているんですか! いくら飢えているからといっていたいけな小鳥を食っちゃいけません!」

「誰が食うか。さあ帰るぞ、メルセデス・ベンツ」

「雅巳さん、なんでセキセイインコにそんな物欲の塊のような名前をつけてるんですか」

「『人類』とベンツで迷ったんだ。ほら俺の掌の上で踊れよ人類 とやれば世界を手にしたも同然の気分を味わえるじゃないか」

「そんな名前をつけたところで雅巳さんの年収が増える訳でもあるまいに」

「年収のことは言うな」

 

100

「ねえ、イベリコ。教皇選任がコンクラーベで行われるなら 日本の総理選任はボンクラーベなのでしょうか」

「うわあ……否定できない所がなんとも」

 


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