ひわの葉薬(トップ) > 掌編 > 6


 

別れの日に

 駅のホームで待っていた彼女は、僕に気付くとふらり 笑いました。

 

「意外に、早かったのね」

「当たり前だよ」

「でも、来てくれるなんて思わなかった」

 

 時計を見ると、もうすぐ電車が着く時間。もうすぐ、彼女とお別れ。

 

「お別れね」

「そうだね」

「終わりね」

「そうだね」

「しおらしいのね。そろそろ、本音 言ったらどう? ほんとは、あたしのこと心配で来てくれた訳じゃあないんでしょ」

 

 彼女はハンドバッグの中から、預金通帳を取り出しました。

 

「ごめんなさいね。あわててたから、あなたのものと間違えて持って行っちゃったの。わざとじゃなかったんだけど、どうしようかと思ったわ。あなたが来てくれてよかった」

「そう。僕、君が盗んで行ったのかと思ってた。君と僕の通帳、暗証番号が同じだったから」

「そうね。お互い、二人が付き合いだした日の番号にしたんだもんね」

 

 それを受け取ると同時に、プアンと高い音が耳を通って、電車が到着。彼女は、少し残念そうな顔をして、重々しく開いたドア 電車に乗り込みました。

 

「じゃあね」

「うん」

「間違えてごめんね」

「うん」

「すっかり、あたしのものだと思ってたの。まさかあなたのものだなんて」

 

 発車のベルがチリチリと高く鳴り

 

「使い切っちゃってごめんなさいね」

 

 えっと思った僕の前でドアが閉まりました。

 

ビデオ

「先輩、なんですかそれ」

「何って、見てわからないの? ビデオに決まってるでしょう」

「いえそうでなくて ですよ。いきなり人のうちに上がって微塵の遠慮もなくビデオデッキにビデオを差し込むもんだから……………………ど どんな内容なのかなあ と……」

「あたしの知り合いであんたくらいしかビデオデッキなんて古臭い時代遅れの産物を持ってる人間 いないんだもの。これはねえ。呪いのビデオなのよ」

「ああ、あれですか。リングとかループとか」

「違う。そんなんじゃあないわよ。これはね、本物と書いてモノホンなのよ」

「訳わかりませんけど」

「今にわかるわ」

「ええー……わかるったって、スイッチ入れても画面が砂嵐で雑音しか聞こえませんよ。ダビングに失敗したビデオみたい」

「お黙り。いいから見ときなさい」

 

 そう言う先輩に言われるがまま、しぶしぶ見ておりますと、急に先輩が僕の袖を引っ張って、画面を指差しました。

 

「ほら、しっかり見なさいよ。今 始まったでしょ。三人の若者が深夜、車から出てきて……このビデオがどこで撮られたのかは知らないんだけど、どうも行方不明になった若者三人がいなくなった後に発見されたビデオらしいのよ」

「ああ、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』みたいなもんですか」

「そうそう。あれは作り話だけどさ。ああ、ほら、見て。あの洋館に三人が入ってくのよ。門が壊れかけてて、壁もぼろぼろだから誰の家かはわからないけど、確実に誰も住んでないわよね? 窓ガラスだって全部割れてるし」

「う、うん」

「ほらほらほらッ! キャー! あそこの壁見てよ! 一面に、真っ赤な手形が! そ、それでね、それでね、そこのそばに、ほら、よーく見ると、人影が写ってるのよ! キャー! キャー!」

 

 先輩は僕の袖をぐいぐい引っ張って、何やらとても楽しそうにしゃべるのではありますけれど。

 

「ちょっとぉ、人がこんな怖い思いしてんのに、あんたは『うん』『うん』ばっかりなの?」

「あ、うん、ごめん……」

 

 先輩は憤慨していましたけど、やっぱり、どうしても、わからない。

 だって 先輩が指差してキャーキャー騒ぐそのテレビ画面、どう目をこらしても 僕には さっきと同じく ノイズを放つ砂嵐しか見えないのです。

 

エケコ

 夫のひどい浮気癖に彼女が悩んでいると聞いて心配していたのですが、意外にも 久しぶりに会った彼女は見るからに元気そう。

 旦那さんの浮気もおさまったのかなあ あの高そうなネックレスや服は旦那のお詫びかしら なんて思いながら、私は彼女がいれてくれた紅茶を傾けておりました。

 

「……その様子だと、旦那の浮気も一段落ついたみたいね」

「ふふふ」

「旦那、いい男だもんねえ。あなたと付き合ってる頃から浮気がひどかったんでしょ? そんな男を、どうやって更正させちゃったのよ」

「聞きたい?」

「聞きたい!」

「うふふ。あのね。これを使ったのよ」

 

 なんて言って 彼女が取り出したのは、へんてこりんな小さい人形。よく見ると、何やら お札だの 宝石だの 家のミニチュアだのを たくさん身につけています。

 

「これはね、エケコっていうの。お守り人形よ。新婚旅行で行ったペルーで買ったの」

「これがどうかしたの?」

「これは、持ち主のいわゆる分身なのよ。お金や家を身体に巻いてるのは、持ち主が裕福になれるようにって願いがこもってるの。この人形は、あたし。いっぱいついてるでしょ。宝石とかお札とか」

「へえー……言われてみれば、この人形 どことなくあなたに似てるわね」

「エケコはペルーに行けばおみやげ物としてどこにでも売ってるんだけど、この人形は特別製でね。ガイドの人と仲良くなったから、特別にとある村の呪術師のところに連れてってもらって、彼とあたしの二人分のエケコをオーダーメイドしたのよ」

「ふーん。オーダーメイドだからこんなに似てるのね。よく見るとお札も日本札だし」

「そうそう。そのお札はミニチュアの偽物だけどね。クレジットカードとか、土地の権利書とかも巻いてるでしょ」

「物欲の塊ね。……ああ、そうだ、ねえ、彼と二人分造ったんでしょ? 彼の人形は?」

「うん。それなんだけど。このお守り人形、単体じゃあ別にご利益がないのよ。こんな風に色々と身体につけてるから持ち主に利益が返ってくるの。だから、こんな風にしちゃえば、まったく逆の効果があるって訳」

 

 彼女が見せたのは、彼の顔したお守り人形。その身体には彼女の人形のように お金や宝石ではなく、借金の督促状 ローンの返済証 彼名義の連帯保証人証書 請求書 赤字帳簿 たくさん たくさん。

 

「あたし、実は昨日あいつと離婚したのよ。裁判ではがっぽりしぼり取ってやったから、あいつはもう無一文ね。こんなことじゃ、女にも愛想尽かされるんじゃない?」

 

 彼女はそう言ってくすくす笑いました。ああ、なるほど。彼女のあの高価そうなネックレスや服は、そういうことだったのですね。

 その晩 私は、久しぶりに帰って来た夫に ペルー旅行をねだりました。

 

一本だたら

 祖父が子供の頃に、親戚の人から聞いた話。

 

 当時、その地方には山があって、女工たちが工場に出勤する時には毎回山越えをする必要があったのですが、何故かその山を通る時 女工たちは必ず遠回りな道を選んでゆくのです。

 その頃十五の女工だった彼女はそれが不思議でたまらなくて、ある日 一緒に出かける年配の女工の一人に聞いてみたのでした。その人はあまり心地よい顔をしなかったものの、理由について話してくれました。

 昔、この山はいわゆる『姥捨て』のために使われていました。老人だけではなく、疱瘡にかかった者、足の萎えた者、間引かれる子供、病気になった女郎など、社会から抹殺された人々が捨てられていったのでした。

 この山は似たような場所が多く、天然の迷路のように入り組んでいるのですが、それでも 身体が健康であったり 地形を覚えつくした老人などが 生きて山を出ることもたびたびありました。

 村人は生きて帰ってくる者がないよう、姥捨ての際には 捨ててくる者の足を切り落とすようになりました。両足を切るとそのまま死んでしまうことがあるので、必ず片足を のこぎりや刀で切り落としてから、捨てていくのです。こうするようになってから、生きて山を出る者はなくなりました。

 姥捨てがなくなった今でも山は縁起の悪い場所とされ、あそこを通った者は足を取られるとか、片足だけの老人が追いかけてくるとか、色々な噂がたっていました。

 しかしその話を聞いてもまだ、彼女は納得できませんでした。一刻も早く帰ってお給金を家に入れたいのに、昔の言い伝えで何時間も遠回りしなければならないなんて、とてもすんなり受け入れられるものではなかったのです。

 とある、雪の日。彼女の母が病気で倒れてしまいました。父は出稼ぎに出ていたものですから、家には幼い弟や妹しかいません。彼女は工場へ出向いてからもそれが気がかりでならず、すぐにでも帰ろうと 皆が止めるのも聞かずに 吹雪の中 通ったことのない山道を歩いていきました。

 けれどあんまりにも雪がひどく、満足に前も見えません。そうしている内にどうやら道に迷ってしまったらしく、今どこにいるのかもわからなくなってしまいました。

 途方に暮れたその時、肩を叩かれ 振り向いてみれば一人の少女が着物一枚でそこに立っていて こんな吹雪の中でこんな幼い少女が

 ……いけない、幽霊だ。そうは思っても 恐ろしさと寒さで口もきけず。

 

「迷ったの?」

 

 少女の言葉にうんとうなずくと、少女は彼女の手を取って歩き出しました。吹雪の中、少女の声はかすかに耳に入るのみ

 

「ここは近道でも迷う人が多いから 吹雪の日でなくてもここら辺は通ったらいけないんだよ。あたしは道がわかるから、連れていってあげる」

 

 そうして少女に導かれるまま、彼女は家にたどり着きました。家の前で少女と別れ、彼女は病気の母に粥を食べさせてやりながら、今のことを話しました。

 

「それはきっと、一本だたらだ」

 

 病気の母は、そう言って戸口を指しました。

 

「昔はここは人買いがたくさんいた。売られてくる子供もたくさんいた。使えない子供は捨てられた。多分、捨てられる時に 足 叩き切られた女の子が、吹雪で困ってるあんたを見て、ここまで連れてきてくれたんだよ」

 

 彼女が戸口に出てみると、彼女の足跡の前に 何故か片足分しかない足跡が 山の方から点々と続いているのでした。

 

「道がわかってたってことは、両足がありゃあ 山から生きて出られたってことさね……」

 

 後ろで、母親がつぶやきました。降りしきる雪の中、彼女は足跡の前で手を合わせました。

 片足分しかない足跡は 山へ帰る道の前で ぷっつり 消え失せているのでありました。

 

メール

 最近、携帯電話に妙なメールが届くというので、その彼女の家を訪ねましたところ、真っ青な顔をした彼女がおびえながらも迎えてくれました。

 メールが届き始めたのは四ヶ月前から。メールの文面から察するに、どうやら後をつけられたり 室内を覗かれているようなのです。彼女は気持ち悪くなって、盗撮カメラを捜したり 外出の時は常に周りを気にして 帰り道を頻繁に変えるようにしているのですが、どうにも効果はない様子。

 メールを見せてもらいますと、確かに気色悪い。「今日はこの間買ったカーディガンを着ていたね。赤いベアトップとよく似合っていたよ。でも、会社帰りにコンビニに寄ってお菓子を買うのは相変わらずだね。太っている君なんか醜いからやめたまえよ」。どう見てもストーカーです。

 最近はカーテンを閉め切っているから部屋を覗ける訳がないのに。そう言って怖がる彼女の携帯電話 しばらく見つめておりますと、ああそうだ メールアドレスから携帯電話の番号が割り出せるじゃあないですか。

 とりあえず彼女にそのこと伝え、さっそく家に帰って 危ないことに詳しい友人に調査を頼みます。一週間もすれば電話番号と住所が届きました。わあ、こんなに簡単に個人情報が手に入ってしまうのですね。

 彼女にそれを連絡してみると、割り出された住所は彼女の家の向かいマンションだということ。なるほど、だから彼女の行動を逐一観察することができたのでしょう。さっそくそこに向かってみます。

 エレベーター乗って十三階。一番西にある部屋。インターホン鳴らしても返事はなく、ドアを叩いてもまったく反応はなし。けれども新聞受けには新聞がはさまっていて、誰か住んでいることは確か。すぐにでも話をつけてしまいたかったのですけれど。

 そうして何度目かのノックの後、突然がちゃりとドアが開いて、ようやくおでましか そう思って身構えたけれど、どうやら室内には誰もいない様子。叩いている内に、勝手にノブが回ったようです。

 声をかけてみても誰もなく、恐る恐る踏み込んでみても何もなく、部屋はまさに空き家同然。これは、どういうこと? 玄関で立ち尽くしていると、どこからか ブーッという音。ふと見ると、玄関の隅に携帯電話が落ちていて。

 手にとってみますと画面には『送信されました』という文面 送信ボックスを確認してみれば 大量のメール 全部 彼女のメールアドレスに向けて送られていて、なるほどこの携帯電話を使って送っていたのか そう納得する前に あれ 誰もいじっていないのに どうしてこの携帯電話は メールを送信できたんだろう

 そう思った直後 僕の手の中で携帯電話が勝手にメールの新規作成 始め 恐ろしい速さで『愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる』 メールが出来上がっていって

 放り出した瞬間 携帯電話はブーッと鳴って、送信を完了したのでした。

 

 あの日以来、彼女の元にはメールが送られてこなくなったのですけれど、僕が話をつけたからと誤解した彼女が涙目で「ありがとう ありがとう」とお礼を言うものですから、変に怖がらせることもできず 本当のことが言えませんでした。

 後からわかったのですけれど、彼女の向かいのマンションは十二階建て。じゃああの日僕が行った十三階のあの部屋は、一体誰の部屋だったんでしょう。

 

肝試し

 残暑厳しい夏の日。田舎に帰ってしまえばクーラーもなく、暑さをまぎらわすために何やらしなければならないのですけれど、涼しさを得るためにすることといえば、風鈴を聴くこと 打ち水をすること 日陰に行くこと くらいなものです。

 で。することがさっぱりありませんで、地元の仲間に誘われるがままに、普段ならば絶対にやらない 肝試し なんぞ することに なって しまいまして。

 真夜中。丑三つ時手前に出発する頃には、真夏でうだっていた頭が冷静になるにつれて気分も落ち込んでゆきまして、ああ 変なのついてこないといいんだけど なんて思いながら ポケットに『あじ塩』携え、誘いにきた友人3名と一緒に 例の場所へ。

 例の場所というのは、いわゆるミステリー・スポット。先日 女性が焼身自殺した場所です。新聞に載ったせいでけっこう広範囲の人に知られておりまして、かく言う僕もその記事を目にしておりましたから、詳細は知らずとも 彼女の写真や死に方やどこで彼女が死んだかなんてことも知っていました。だから嫌だったのですけれど。

 同行した友人三名の中にはカップルもおり、自殺現場に行くというのに わいわい きゃあきゃあ にぎやかすぎです。僕だったら浮かばれないなあ。

 現場は、少々 小高い丘にある公衆トイレ。電柱と街灯がそばに一本立っている以外に、特にこれといったものもありません。四人で懐中電灯を片手に、入ってみます。

 

「やっだー、ほらほらマサぴょん見て! 黒コゲ〜」

「本当だ。天井にも床にもまだ跡が残ってんなあ」

「もうとっくに直ってたかと思ってたんだけどねー」

「さすがに利用する人もいないみたいだね」

 

 好き勝手なことを口々にしゃべっておりますと、カップルの彼女の方 何やらもぞもぞし始めます。

 

「ねーぇーマサぴょん、トイレ行きたーい」

「へえ。ちょうどいいじゃん。ここでしてけば?」

「やっだー! 怖い怖い! マサぴょんも一緒にいてくんなきゃやだー!」

「はははしょーがねーなユリっぺってば☆ じゃ、俺らしばらくここいるから、お前ら先帰ってろよ」

 

 いちゃいちゃしながらでれっと言うマサぴょんに、僕ともう一人の友人は何も言わずその場を後にすることにしました。ラブラブでうらやましい。僕だって来年は必ず彼女連れて行ってやる なんて 決意を新たにしておりましたところ、となりの友人がぼそっと。

 

「……いいわね、あの二人ラブラブで」

「そ、そうだね」

「あたしも彼氏ほしい。今すぐほしい。喉から手が出るほどほしい」

「なんだったら僕が彼氏に」

「あんたなんかお呼びでないわ」

「……失礼しました」

「……ところでさ、さっきの焼身自殺現場。あそこで死んだ女の人、なんで死んだか知ってる?」

「いや、知らない」

「恋人にものすごい捨てられ方をして自殺したのよ。新聞じゃ出てないけど、ここら辺じゃ有名な噂よ」

「……そ、そうなんだ……じゃ、あの二人 危ないよね。注意しに行った方がいいかな」

「ほっとけばいいじゃない。ああ、彼氏ほしい」

「いらだってるね……だから僕が彼氏になるって言ってるのに」

「あら、私は あなたが本気なら、それでもいいのよ」

 

 えっと思った僕のくちびるに彼女のそれがかすめ 声の出ない僕に向けて彼女がにっと笑いつつ、僕の首に頭を寄せ、僕の手をぎゅっと捕まえ そうだ、彼女の声は確かに途中から変わってしまって ああ いくら暗いとはいえ もっと 早く 気付くべきだったのですけれど

 青白く笑う彼女の顔でない顔は 確かに 数日前 新聞で見た あの自殺者の顔で

 ポケットに入った塩を取り出す前に 彼女がつけたライターから燃え移った炎が僕らの身体を包み込みました。

 

宇宙船の中

 地球の伝説や神話が大好きだという宇宙人に拉致された三人は、パニックに陥りながらもとりあえず我々に戦闘の意思はないのだということをアピールするため 宇宙人が地球の伝説について語り合おうとしている時に握手を求めてしまったのですが、どうやらそれは彼らの文化では「我々を奴隷にしてください」という合図だったらしく、宇宙船にいる宇宙人たちの娯楽のために 怪物と戦う羽目になってしまったのでした。

 怪物は 遺伝子操作されたのか それとも彼らの星にいる生物なのかわかりませんが、ともかく形状としては地球でも知られているものだということです。そのハンディ(になってませんが)代わりに、三人は怪物たちと素手で戦わなければならないようです。

 

 こんな珍妙な状況、出来の悪い小説か 心理テストのネタとしか思えませんが、まぎれもなく現実。三人は宇宙人から これから戦う相手をこの中から選べとホワイトボードのようなものを見せられました。

 1.ケンタウロス

 2.マピングアリー

 3.マングース

 

A「俺、マングースで!」

B「ああっ、ず、ずるい!」

A「うるせえ! つーかマングース以外で勝てそうなのいねえ!」

B「抜け駆けすんなよ! 俺だってマングースがいい!」

A「早い者勝ちに決まってるだろバーカ!」

 

 醜く争いあう二人をいさめつつ、宇宙人はそんなにマングースがいいなら二人ともマングースでいいと二人に言いました。諸手を挙げて快哉を叫ぶ二人。しかし残った二人は、宇宙人の指差したボードをじっと見つめた後、マピングアリー(大きいナマケモノ)を選択。驚愕の面持ちでCを問いただすAとB。

A「ばっ、バカ! 何やってんだよ!」

B「俺ら二人ともマングースでいいって言われてんだから、お前もマングースにしとけって!」

C「いや……遠慮しとく」

A「とりあえずこの場さえしのげれば助かるかもしんねえだろ!」

B「マングースくらい勝てるって! 大丈夫だって!」

 

 責めるAとBに、Cはたまりかねて叫びました。

 

C「お前らな、そう言うけど、ケンタウロス、マピングアリーときてただのマングースが出ると思うのか! バカ!」

A「えっ、巨大マングースとか?」

C「ちげーよ! ここの宇宙人は地球の神話とか伝説が好きなんだろ! 俺はマングースが出てくる伝説なんてひとつしか知らない」

B「な、何?」

C「モンゴル民間伝承に出てくるマングースはすべての災厄の原因ともされた日本でいう疫病神、中国で言う鬼のような存在で、それは頭が十二あるとも二十あるとも言われ、人の肉を食らって生きるとされている恐ろしい怪物なんだ! お前ら俺の心配してる暇あったら自分の心配しやがれ! バカ!」

宇宙人「じゃあ三人ともマングースでオッケイね」

 

 ちょっと待っ と三人が振り返ると、宇宙人は既にコロシアムの外 扉からは何かが出てこようとしている まさにそのときで

 

そこにいたのは

 先月の、夏休み末 深夜。友達数人で僕の家に集まって、一升瓶を傾けつつ談笑しているうちにかなりの酔いが回ってきてしまい、誰からともなく、「そういえば夏なんだから怪談話そうぜ!」てなことを言い出しました。

 普段はそんな話にうとそうな友人たちなのですが、この時ばかりは酒の勢いも手伝ってか、べらべらとしゃべる しゃべる。どこかで聞いたような話から身近なミステリースポットまで、知らない方がいいような話ばかりでした。自ら率先してしゃべりまくっていた僕が言えたセリフではないですが。

 その内 悪ノリしたみんなに、懐中電灯を持ってきてほしいと頼まれました。せっかくだから恐ろしげな雰囲気でやろう ということらしいです。そんな仰々しいことしなくても と口では言いつつ足は軽やかに玄関の懐中電灯へと向かって行って  ああ酒の勢いって恐ろしい。

 電気をつけるのも面倒くさくって、暗い中 手探りで懐中電灯を見つけ、戻ります。みんなが騒いでいる部屋のドアは開けっ放しで光が漏れていますから、迷うことも転ぶこともありません。ほら懐中電灯だぞー と 部屋に 入ろうとしたとき、すっかり出来上がってしまっている友達のすぐそばにあるタンス 壁とのせまい隙間に、髪の長い女のひとの くびが

 ぎゃあと叫んだ僕に、友達がわらわらと群がって「どうした」「ちびったか」と聞いてきます。誰がちびるんだてめぇら そのタンスのとこに ゆゆゆ幽霊が

 酒と恐怖でろれつが回らない僕をほっぽって、皆さんタンスの中を見て それから爆笑していました。

 

「ぎゃっはははは! 何言ってんだよ!」

「バッカだなー。もう、コレだよ、コレ。鏡じゃん!」

「何あせってんのさー!」

「鏡に俺らの誰かが映ったんだろーよ!」

「まったくこんなことでちびんなよなー!」

「まあいいから呑もう呑もう!」

 

 てな具合で問答無用にずるずると酒盛りに引き込まれ、気がつくと夜が明け始め、ようやく我に返った友人たちは そのまま大量のゴミを置いてふらふらと帰ってゆきました。僕はといえば、もう何もする気が起きず、ただぐたっと祭りの跡に横たわっておりました。

 次第にぼんやり白くなっていく意識の中で、僕はふと思いました。常日頃、一応の掃除はこなしているはずなのに、タンスの裏に鏡があるってことに どうして気付かなかったんだろう? そもそもどうしてタンスの裏に鏡があるんだろう? 偶然落ちていただけなら、どうして鏡はちょうど宴会をしている側が映るように向けられていたんだろう?

 僕はもうひとつ思い出しました。確か友達の中には 一人も女の子はいなくって 長髪の奴もいなくって 僕も当然 長髪じゃあない。なら あの鏡に映っていたのは、一体誰だったんだろう。

 ばっと起き上がって タンスを見てみても タンスは何の変哲もなく   恐る恐るその裏に回って見てみますれば 確かにあったはずのあの鏡が 今はどこにもないのでした。

 

誕生日

 私の誕生日プレゼントにと、彼が作ってくれたのはハンバーグ。当初は「ありあわせのものが一番おいしいんだ」と言い張る彼に「せっかくの誕生日なんだから高級レストランにつれていってくれたっていいじゃない」と不満顔だった私も、彼の言い張る通り 実においしいハンバーグに舌鼓を打ちっぱなしでした。

 「意外と料理が上手なのね」「結婚したくなった?」「掃除洗濯できるようになったら考えてあげる」なんていちゃいちゃしておりましたら 玄関の方でガタガタと物音。行ってみましたら、あら また あの手紙です。

 私の後ろから彼が心配そうに覗き込み、顔をしかめました。「また、彼女?」と吐き捨てる彼に、そうみたいねとうなずいて手紙をそのままゴミ箱にポイ。

 『彼女』と言うのは、私のストーカー。彼の元彼女。彼女のすさまじい嫉妬深さにあきれはてた彼が別れる時に「好きな人が出来たんだ」と言ったおかげで、新しい彼女になった私は彼女の標的となり、嫌がらせの手紙や電話が毎日来るようになりました。最初はこんなこともあるか程度の認識でしかなかったのですが、回数が増えるにつれ さすがにまいってきてしまいました。

 

「こいつ、この前も君の職場に嫌がらせ電話かけてきたんだろ? その前は変な、中傷ビラをまいたりしたらしいね」

「うん」

「付き合ってる時もものすごかったけど、俺じゃなく君を恨むなんて筋違いもいいとこだ。生まれつきストーカー体質なんだろうな。本当、最悪」

「うん。最近は家に帰る頃になると待ち伏せしてたり、家にゴミ投げてったりするのよ。まったく、いつになったら飽きるのかなー。いい加減 警察に行こうかな」

「いや、ストーカー規制法って、確か対象に恋愛感情があるストーカーのみの適用だった気がする。警察に言っても無理じゃないかな」

「でも、このままだといつ殺されるかわかんないし、怖いよ」

「大丈夫。確かにあいつ、君のこと殺そうとまでしてたけど、俺がこないだ話つけてきたから、大丈夫だって。この手紙もその前に出されたもんだと思うよ、多分。だから大丈夫。安心してよ」

「そう? 口下手なあんたが説得してなんとかなるような人じゃないと思うんだけどなあ」

「あっ、疑ってる?」

「当たり前でしょ」

「そんなら証拠見せる、証拠。安心してよ」

 

 むきになった彼が私の手を引いて、居間 ソファ前に一緒に座り カバンからたくさんの写真を取り出して「見てごらん」と言いました。

 ん これ 寝てるあのストーカーの彼女。説得なんていって まさか眠らせて変な写真撮って脅迫したんじゃあないでしょうね。なんて思って二枚目 三枚目 見ていきますと 脅迫じゃあないということはわかりはしたのですけど。

 二枚目 彼女の手が切られ、三枚目 彼女の足が切られ、四枚目、彼女の首が切られ、五枚目、彼女の内臓が引き出され、六枚目、ミキサーでぐっちゃぐっちゃ まるで焼く前のハンバーグのような肉の色の液体になり

 誕生日プレゼントのハンバーグ こういう意味だったのですね。私は 私の横で優しく微笑む彼を見つめ、口元だけ笑いました。

 

窓から

 「もういやっ! もうあんな奴のことなんかぜっっっっったい信用しないんだから!」なんて、こんな真夜中に特に親しい訳でもない知人の家にいきなりやってきて一升瓶を垂直飲みしながら言うセリフじゃあないと思うんだけどなあ。そうは思っていても、既にへべれけの先輩に付き合わされて飲んでいる以上 大した抵抗はできないのですけれども。

 

「もう、最低、最低、最低。ちょっと聞いてよ。あいつってばさ、あたしに内緒でさ、パチスロで借金しちゃってさ、それがさ、もうさ、八十万円超えてるってのよ。信じらんない。なんなのよ。しかもキャバクラで使った借金も含めて八十万だっての。最悪。あたしとゆー最高の美女がありながらキャバクラだなんて、土に埋もれて死ねって話よ」

「はあ。それは最悪ですね。はいどうぞ」

「ありがと。うっ、うっ、もう、何もかもイヤよ。もう今日は飲み明かしてやるんだから。夜を徹して飲んでやるんだから」

「徹される僕の身にもなっていただきたいんですけど」

「ああ!? なんか言ったか」

「い、いえ。けど、その彼氏と別れるんですか? 先輩」

「別れるに決まってるでしょ! ナメてんのアンタ。あ、まさかあんたそういうこと言ってあたしのこと狙ってるんじゃないでしょうね」

「狙いたくもありません。……あれ。先輩、先輩の携帯が鳴ってますよ」

「ええ? ったく、どこのってのよこんな時に。よこせ」

「……ど、どうぞ」

「はい、もしもしぃ〜……え、何? ……うん、え? それで? ……うん、そう。そうなの……へ〜……わかった。うん。あたしも悪かったしさ。うん。……え、そうなの? うん。わかった」

 

 携帯を切った先輩はすぐに立ち上がって帰り支度を始めました。なんなんだと思っていましたら、どうやら例のロクデナシ彼氏からの電話だった様子。「謝ってたから許す。んじゃ」なんて先輩、部屋の片付けなど一切関知するそぶりもなく 部屋を出て行ってしまいました。暴徒ですか。

 しょうがないので酔いもまわっていたことだし、そのまま寝てしまおうか なんて思っていたらドアが轟音とともに叩き開けられ、四cmほど飛び上がって玄関を見てみますれば帰ったはずの先輩。どうやら待ち合わせ場所を聞くのを忘れたようです。だっさ と思わずつぶやいたら全力でむこうずねを蹴られました。

 

「やっだ、もーどうしよー。もう、あたし酔っちゃってたからもーどこって言ってたんだかわかーんなーいっつーの死ねっ」

「誰が死ぬか。今でもだいぶ酔ってるみたいですね先輩。携帯かけ直しゃあいいじゃないですか」

「それもそうねー。携帯って、あたしのバッグだっけ」

「他にどこに入ってるんですか。まったく、今度からこういうことはやめてくださいよ。もう、先輩に付き合うのは尋常じゃない労力が」

 

 物音がした方を振り向くと、僕も見たことのある 髪の毛が金髪で鼻にピアスのある男の人がガラスを叩いていて、男の人 先輩を見るなり手を振って笑いました。先輩 ぱっと顔を上げて「あれ、あたしの彼氏」と嬉しそうに笑い、窓の方へ  駆けていこうとするその手 僕がつかんで

 

「ちょ、ちょっと、何すんの、邪魔しないでよ」

「邪魔じゃないです。先輩、どんだけ酔っ払ってるんですか」

「はあ? 酔っ払ってんのはアンタじゃない? うっとおしいわね、離してよ、もう」

「先輩、ここに来るときも錯乱してたんですか? ここ、どこだと思ってるんですか。マンションの六階、ベランダは窓と別方向ですよ」

 

 二人して窓の方を向いた瞬間、先輩の彼氏の血走った目はかっと大きく見開かれ 口がにまりと大きく笑って そのまますっと、闇の中へ消えました。

 あの後 気絶した先輩を介抱している途中で先輩の飲み友達から連絡が入って、彼女によると 先輩の彼氏 自殺かどうかはわからないけど つい先日交通事故で亡くなったのだそうです。あの時彼氏が来たのは何のためだったか 僕にはわかりませんけれど、あの窓を開けていたら 多分きっと

 

 


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